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[ネットオークション運営会社の責任追及訴訟](2008/12/03)
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≪ネットにはびこる詐欺≫
質問サイトなどを見ていると、しばしば、ネットオークションに絡んで、「代金は支払ったのに、商品が送られてこない」とか、「ブランド商品を送ったら、偽物だと言って代金を支払わない上、返品による清算を要請をしても、それすらもクレームつけて実行しようとしない」といった相談事例を目にします。このような場合、まずは、「顔の見えない」相手方の顔を見えるようにすることが大事です。
ところが、詐欺師は最初から本当の素性などを明かしていませんから、実際上、その責任を追及するのは難しいでしょう。そうなると、ネット詐欺が横行しているのは周知の事実ですから、それへの対策を十分に取らぬまま、詐欺師の活躍の場を与えている、ネットオークションの運営会社にも責任があるのではないか、と思うのが人情というものでしょう。
≪ネットオークション運営会社に対して、裁判!≫
最近、インターネットオークションサービスを利用して詐欺の被害にあった784名が,運営会社に対し,詐欺の被害を生じさせないインターネットオークションシステムを構築すべき注意義務を怠ったとして,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めて集団訴訟を起こした事案がありました。
第一審 名古屋地裁平成20年03月28日判決 平成17(ワ)1243 請求棄却 判決(PDF)
控訴審 名古屋高裁平成20年11月11日判決 平成20(ネ)424 控訴棄却 判決(PDF)
結論としては、いずれも、(業界団体の主張ともいえる)運営会社側の主張をほぼ認め、原告(詐欺の被害者)の請求は退けられております。
この訴訟において、運営会社の主張の柱は、「オークション運営会社は、取引の場を提供するに過ぎない」ので、個別の取引者間の詐欺などには責任を負えないというものでした。
なぜ、このような主張が出てきたのかといいますと、誰かに損害賠償をしようとする場合、「何がしかの義務の不履行があって、それと被害者に生じた損害との間に因果関係があること」の主張・立証が必要だからです。
この点、一般論として想像してみてもらえば分かりますが、他人の犯罪行為について、【それと知って協力したわけでもない第三者】が被害者に対して責任を負うことはありませんよね。
このことは、ネットオークション詐欺の場合も同様で、運営会社は、詐欺が生じる可能性があるとは漠然と知っているとしても、「具体的な誰かが特定の行為について詐欺を行おうとして自らの提供するオークションサービスを悪用しようとしていること」を認識しているわけではありませんので、原則論から言えば、責任を負ういわれはないのです。
平たく言えば、運営会社は、利用者がどのような真意の元にサービスを利用しようとしているのかについてまで調査する義務もなければ、他の利用者が絶対に詐欺被害にあわないように保護してあげるような義務もないので、「被害者に対する義務違反はない」との結論になるわけです。
ところが、法は、一定の立場にあるものについては、例外的に責任を負わせることで責任を加重している場合があるのです。そこで、本件の被害者側も、会社の責任を基礎づける為に、運営会社は実質的にネットオークション取引の仲介(媒介・仲立)をしているのではないか、と問題提起する形で責任を追及したのが本件でした。
この点について、裁判所は、会社側の主張を認容して、運営会社は個別の取引の成約に尽力するような形で関わっているのではなく、システムを提供しているだけだとして責任を否定しました。
その中で注目されているのは、オークション後に、具体的な契約条件の確定や代金支払・商品の配送方法については当事者間で定められるものであり、その時点で、落札者は契約をキャンセルできるといったシステムの特質にあったように思われます。
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【ワンポイント】
控訴審裁判所は、「落札されても、出品者も落札者もその後の交渉から離脱することが制度上認められており、必ず落札商品の引渡及び代金の支払をしなくてはならない立場に立つわけではない。そうすると、落札により、出品者と落札者との間で売買契約が成立したと認めることはできず、上記交渉の結果合意が成立して初めて売買契約が成立したものと認めるのが相当である」と判示しています。
なお、今後、ネットオークションの法的性質を考える上で重要な指摘であると言えます。
私見になりますが、この指摘を踏まえると、ネットオークションというのは、結婚相手紹介サービスなどと同様ということになります。そこで、運営会社は、ビジネスマッチング・サービスを業として行うものとして、身元の不確かな者を紹介した点にこそ責任の理由が見出されるべきではないでしょうか。
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この関連では、被害者側から、エスクロー・サービスの利用義務づけをすることで詐欺を抑止できたはずだと主張していますが、やはり、利用者の負担増からしてそれは現実的ではないとして退けられています。
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そもそも本件サービスは、インターネットオークションという仕組み上、
> 一般消費者が買い手売り手になりうるシステムであり、
>
販売店等を介さずに安価で目的商品を取得したいと考えて参加する利用者が大半であることからす
ると、
>
出品・入札に際して、利用者にはなるべく代金その他手数料を抑えたいという心理が働いている
>
(本件サービスの有料化に際して、利用者に反発が起こったのもその一つの現れといえる)。
≪運営会社の責任発生の余地について≫
もっとも、裁判所は、運営会社側の主張を全てそのまま認めたわけではありません。将来に繋げるような判断として、(一審)裁判所は、次のように説示しています。
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本件利用契約の内容となっている本件ガイドラインにおいては、
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被告(運営会社)は利用者間の取引のきっかけを提供するに過ぎない旨が定められており、
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被告は、これを指摘して、被告には利用者間の取引について一切責任を負わない旨を主張する。
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しかし、本件利用契約は本件サービスのシステム利用を当然の前提としていることから、
> 本件利用契約における信義則上、被告は原告らを含む利用者に対して、
> 欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を負っているというべきである。
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> 本件ガイドラインには被告の免責についても定められているが、
>
同免責条項の適用の有無については、被告の義務違反が認められた後に検討されるべきであり、
>
被告の上記主張が、免責条項以前に被告には全く義務が生じないというものであれば、
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そのような主張は採用することができない。
このように、一切の義務が存しないとの運営会社の主張は排斥しました。
それでは、「具体的な義務」は、どのようなものなのでしょうか?
一般論としては、次のように説示しております。
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被告が負う欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は、
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そのサービス提供当時におけるインターネットオークションを巡る社会情勢、関連法規、
>
システムの技術水準、システムの構築及び維持管理に要する費用、システム導入による効果、
>
利用者の利便性等を総合考慮して判断されるべきである。
と判示して、一般論としては大方の納得のいくところを述べております。
ところが、事案について判断する段になると、各種点において適度な措置を講じているとして、結論において、義務違反を否定しております。
おそらくは、エスクローサービスの義務づけを否定したところに現れているように、やはり、現状以上の強力な対策を義務付けるとした場合に、その費用を誰が負担するのか、あるいは、負担できるのか、という問題が大きく横たわっていたのではないでしょうか。
なお、興味深い指摘として、例えば、信頼性評価システムには第三者機関を介在させるべきだ、との主張に関して、
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本件サービスでは同一人物によるIDの複数所持により評価の自作自演が可能であることなどを供述し、
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本件サービスの利用者評価システムには、限界がある・・・(略)
という原告の主張を引用した部分があったり、また、出品者情報を開示すべきだとの主張に関しても、
>
本件サービスを利用して詐欺を行おうとする者は、被告との本件利用契約においても、
>
虚偽の情報を申告したりするなどして、当初から追及されにくいように行動するものと考えられるのであって
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出品者情報を開示したからといって、その一般予防的効果を期待することはできない。
などとの指摘もあり、生々しい現実が垣間見られるところです。
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