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[携帯電話による書込みと、発信者情報の開示請求](2009/11/10)
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≪電話会社に対する発信者情報の開示請求≫
掲示板やブログのコメント欄への書き込みは、なにも、パソコンを利用した場合に限りません。携帯電話を利用しての、書き込みもあるのです。では、携帯電話で書き込まれた場合、その発信者情報の開示の請求は可能なのでしょうか?
この点については、既に裁判例があります。最近のものでは、平成20年09月09日東京地裁判決(判時2049号40頁以下)で、電話会社に対し、発信者情報の開示を命じる判決をくだしています(但し、現在、控訴中)。なお、この判例を紹介している雑誌の解説コメントでは、携帯電話会社への開示を認めた判例として、他にも2件あるとのことです。
※ 【2010年4月追記】(最判平成22年04月08日 平成21(受)1049事件)
なお、最高裁において、別件で、プロバイダ責任制限法は、ドコモなどの経由プロバイダに対する開示請求も認める趣旨であるとの判断を示し、開示請求を認めた控訴審(東京高裁平成21年03月12日 平成20(ネ)5138)の判断を是認しています。
2006年12月〜07年1月にわたり、匿名の発信者に「脱税している」などと書き込まれた事案で、掲示板の管理者は発信元の携帯電話のIPアドレス(端末識別番号)などの開示を承諾したが、ドコモ側は情報開示を拒んでいた。
≪本件の概要≫
この事案は、元宝塚歌劇団、AZUKI(城華阿月&花柳摂月華)さんが、そのアメーバーブログ(サイバーエージェント社)に化粧品に関する記事を投稿なさったところ、「その化粧品でひどく肌が赤くただれて、大学病院の皮膚科で治るまでに3ケ月かかると言われました。どうやら同じ皮膚科でその化粧品で被害者が複数いて、担当医が成分調査に出したそうです。ステロイドが入っている可能性あり。大ファンのあづきさんが心配です。お使いにならないで下さい。」とのコメントが投稿されたことから、化粧品会社が、(アメブロからIP情報とタイムスタンプを得た上で)NTTドコモに対して、その発信者情報の開示を求めた事案でした。
≪裁判所の判断≫
裁判所の争点に関する判断は、次のものでした。
“被告は、所有する電話通信回線を他人の通信のために利用させ、他人の通信を媒介していることが認められるのであって、本件発信者が本件書込みをしようとして自分の携帯電話等から情報を発信し、経由プロバイダである被告の通信回線を利用して、本件ブログを管理しているサーバにアクセスして受信し、これを閲読するまでの全体が「特定電気通信」に当たると考えられるのであって、経由プロバイダとしてこのような通信の用に供されている特定電気通信設備を用いている被告は、法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に当たり、法4条1項にいう「開示請求役務提供者」にも該当するというべきである。”
要するに、電話会社に対しても、契約者情報(発信者情報)の開示を求めれますよ、という判断です。
≪余談≫
ところで、この訴訟において、ドコモは、開示対象とすべき情報として、発信者の氏名、住所で十分であり、メールアドレスまでは不要であるとの主張もしているようです。
これに対して、裁判所は、次のように応答しています。即ち、
“本件訴訟における被告の訴訟態度に照らしても、被告が任意で原告に対して電子メールアドレスを開示することは期待できない。したがって、原告は再び被告に対して訴訟を提起しなければならないことになるが、そのような方法はいかにも迂遠なもので、原告は迅速な救済を受けることができず、大きな不利益を受けることは明らかである。”と。
この発信者情報の開示訴訟というものにはつきものなのか、被告側は、頑強なまでに意味不明な抵抗をします。その断片が、この説示から窺えるようで、経験者ならば、うんうんと頷ける説示なのではないでしょうか。
≪疑問点≫
この事案で、やや疑問な点があります。
それは、本当に、この事案で、そこまでして書き込んだ投稿者を暴いて、責任を追及する必要があったのか、という実質的な問題です。
もちろん、著者は詳細は知りませんし、くだんのブログを見たのも最近のことであり、従って、投稿が為された当時は、もっと多数のコメントが繰り返されていたなどの事情があるのかもしれません。
しかし、先日、くだんのブログをみたところ、投稿自体が、そんなに悪質な態様で為されていたのかについては、疑問でなりませんでした。どちらかといえば、いちファンとして、化粧品の被害を気遣うような書込みでもあり、・・・もっといえば、ネットであふれている否定的な意見を述べた普通の口コミ情報と大差がないようなものに思えました。
このあたりの、控訴審における判断なども注目したいところです。
(画像は、当該ブログより)
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