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  [ドロップシッピングを解約する! クーリング・オフの可能性](2011/10/20)
  ● 「大阪地裁平成23年3月23日判決 平成21(ワ)第16489号事件/判タ1351号181頁以下


≪クーリング・オフを肯定≫

いわゆるドロップシッピング・サービス契約の解消をめぐるトラブルについて、大阪地裁がクーリング・オフを肯定する画期的な判断を示しています。この判断の意義は、将来に向かっての解消ではなく、契約を最初からなかったことにする解除を認め、それにより、契約時に収めたお金のすべて吐き出させた点にあります。

要するに、納めたお金の全てを年5%の法定利息付での返還を認めたわけです。

その際、事業者側からは損益相殺などの主張も出ていたようですが、裁判所は、解除に基づく原状回復であって損害賠償請求ではないとの理由により、それら相殺関連の主張も退ける徹底ぶりです。



≪争点  ショップの経営は誰なのか?≫

実務的な観点からは、特定商取引法上の条文解釈が問題となったようです。簡単にして言えば、「ネットショップを経営しているのは誰なのか?」です。ここで、もし仮に、「経営者は消費者である」としたならば、単に、消費者が自分のビジネスに関して仕入れや宣伝に失敗しただけの話となりますので、法律が想定する保護の対象ではなくなるとの構造にあったわけです。

裁判所は、この事案で事業者が売っていたドロップシッピング契約のパッケージプランの実質や実態からすれば、「ネットショッピングの運営主体は、実質的には被告〔事業者〕であり、原告ら加入者は、その運営の一部の作業を被告の指示のもとに被告に従属した立場で行っていたにすぎない」と判断しました。


さて、この争点からは、皆様にとっても大事なことが見えてきます。

それは、いわゆるドロップシッピングだからという理由のみをもって、本件のように救済されるわけではないという点です。この事件を紹介している判例タイムズの囲み記事にもありますが、千差万別の態様が見て取れるドロップシッピングの中でも、あくまでも、ネットショップの実質的運営主体が事業者側にあるといえるようなケースに限られるという点に注意してください。



≪クーリングオフの要件≫

ネットショップの実質的運営主体が事業者側にあるといえる場合でも、クーリングオフが可能かは、更なる検討を要します。というのは、クーリングオフをするには、期間内のその意思表示という一般的な手続きを経ていることが必要だからです。

この事案では、特商法55条2項所定の書面を事業者が交付していませんでしたので、この点はさして争いとなりませんでしたが、クーリングオフが認められる期間は短いので、十二分に注意してください。




【大阪地方裁判所 平成23年3月23日判決】


第3 争点に対する判断
 1 争点(1)(本件各契約が業務提供誘因販売取引に該当するか)について
(1)〜(3) 〔省略〕

(4) 本件各契約に係る取引において、被告は、上記2の「業務提供利益を収受し得ることをもって相手方を誘引した」といえるか。


ア まず、本件各契約において原告らが行うこととされていた作業は、(1)アの本件各契約・マニュアルの規定、イの事前の勧誘内容、ウの実際の運営のいずれの見地からみても、(a)商品及び販売価格をネットショップに掲載すること、(b)購入者からの質問メールに対応すること、(c)購入者からの代金が入金されたかを確認し、被告へ入金完了の連絡をすること(以下「購入者からの入金の管理」という。)、(d)月ごとに販売した分の仕入れ代金を被告に支払うことという作業に限られているものと解される。

イ そこで、上記の作業が、被告が自ら提供を行い又はあっせんを行う業務といえるかが問題となる。
(ア) 上記の作業は、ネットショップの運営に伴い発生する業務の一部であると解されるところ、ネットショップの運営主体が原告らであれば、原告らは、自ら運営するネットショップ事業の一部に従事しているに過ぎず、被告が自らこれらの業務を提供又はあっせんしたということはできない。そこで、ネットショップの運営主体が原告らであるのか被告らであるのかが問題となる。以下、ネットショップの運営主体について検討する。

(イ) 前提事実(2)及び前記(1)アで認定したところによれば、加入者はネットショップのオーナーとされ、購入者からの質問メールに対しては加入者が回答し、代金は、銀行振込の場合には加入者の預金口座に振り込まれ、購入者に対する領収書や納品書、商品の保証書も加入者が発行することになっているのであって、これらの事実からすると、購入者との関係では、加入者が、購入者との間の商品の売買契約における売主となるものと認められる。


 しかしながら、ウインドシッピング〔注・ドロップシッピングの個別サービス名〕は、被告が用意した仕入先から仕入れた商品を、被告が製作したウェブサイトを介して購入者に販売し、被告が直接購入者に対して商品を発送するという仕組みになっており、また、加入者が被告から仕入れた商品を当該ネットショップ以外で販売することは禁止されているから、加入者は、商品を被告から仕入れて購入者に販売する場合には、被告が構築した商品販売システムを通じた販売しか行えないとの基本的な構造を有している上、原告らを経営主体とみるには次のとおりの疑問がある。

 すなわち、(1)ウのとおり、原告らはネットショップのオーナーとされているが、自らウェブサイトを修正することもままならず、修正は被告に依頼しないと行えない上、(1)ア(ア)のとおり、被告が自らの判断によって修正要望に応じないこともあるというのであり、また、取扱商品は、被告が提供するリストから選択する他はなく、加入者が自ら仕入れた商品を販売することは事実上できず、被告が提供したリストから選択した商品についても、被告の判断によって取扱が中止されることがあり、また、販売価格は加入者が決定するとされているが、実際にはおおむね被告が設定した参考価格によっているというのである。


 さらに、ネットショップの売上げに重要な影響を及ぼす宣伝、集客作業は、原告らが選択したマキシマムクラス以上のコースにおいては、実際にはもっぱら被告が行うこととされていたというのであるから、これらの事情からすると、原告ら加入者には、ネットショップの運営主体としての自主性、自律性はほとんど存在しないというべきである。

 また、原告らが行うとされている「購入者からの質問メールに対応する」との作業は、被告が定型文を用意したり、回答に関する助言を行ったりしているので原告らの独自の判断が必要な作業ではないし、「購入者からの入金の管理」や「仕入れ代金の被告への支払」との作業は単純な事務手続にすぎない。


 これに対して、被告が担当する業務は、ネットショップのウェブサイトの作成、販売する商品リストの作成、商品の仕入れ、加入者の被告からの商品の仕入れ価格(卸値)の決定、加入者の購入者に対する販売価格の提示、加入者が選択した商品について取扱中止とすること、商品の受注処理及び発送手続、宣伝・集客活動などといったネットショップ経営の根幹といえる重要な業務であり、これらはネットショップの運営主体であればこそ行う経営的判断を伴う行為であると解される。


 このような事情からすると、ウインドシッピングにおいては、購入者に対する関係では加入者が売主となるものの、
ネットショップの運営主体は、実質的には被告であり、、原告ら加入者は、その運営の一部の作業を被告の指示のもとに被告に従属した立場で行っていたにすぎないというべきである。したがって、本件各契約において原告ら加入者が従事することとされている作業は、ネットショップの実質的な運営主体である被告が、原告らに対して提供する業務であるというべきである。



(※ ネット閲覧の便宜の為、適度に、改行を挿入した。)









 ■資料1 消費者庁による行政処分 平成22年4月9日付  PDF(207K)


【追記】
 ■資料2 配信記事

 ドロップシッピング(DS)詐欺に関して、興味深いくだりがありましたので、参考までに。被害者が、事前に登記簿まで調べていた慎重なタイプであっても、騙される時は騙されてしまう、という事例です。


§「DS商法詐欺:逮捕の業者、『商品安く調達』偽る」 毎日新聞 2012/03/04
(http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120304ddm041040130000c.html)

 インターネット上の店舗で業者が用意した商品を個人が販売する「ドロップシッピング」(DS)商法を巡る詐欺事件でインターネット関連会社「サイト」(東京都台東区)は、商品を安く入手するルートを持っていなかったことが警視庁生活経済課への取材で分かった。

 ・・・ ・・・

 生活経済課によると、サイト社には決まった仕入れ先がなく、注文があった場合には「在庫がない」などと言い訳をしていた。客が納得しないと、社員が量販店で購入し、発送していたという。【伊澤拓也】


 ◇被害者「最小限の投資」信じ 「HP改善」400万円入金後、連絡とれず

 「会社のホームページ(HP)もしっかりしていた。だまされた」。奈良県に住むアルバイトの男性(32)は09年3月、ネットで「副業」というキーワードを検索し、サイト社の関連会社を知った。
HPに掲載された所在地や取締役などの情報も登記簿などで確認。担当者の電話対応も良く、「最小限の投資で利益が出る」という勧誘文句を信じ、契約金(HP制作費用)として120万円を振り込んだ。

 しかし、業者が「安く用意する」としていた家電などの卸値は市場価格より高く、売れなかった。裁判で業者の口座を差し押さえたが、残金はなかった。









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