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  [発信者情報開示請求の実際](2011/10/18)
  ● 「最高裁が是認した!? スパム投稿の自由」


≪高裁レベル初の司法判断≫

 ネット上の掲示板へのスパム投稿について、発信者情報の開示請求が認められるかについて、高裁レベルでの初判断が示されています。奈良地裁・簡裁が肯定した判断(いわゆる【奈良法理】)を、逆転、「権利侵害が認められない」ことを理由にして、否定的に解しています。

 その後、この大阪高裁の判断は、上告審である最高裁によって是認されています(最高裁平成23年9月13日決定)。結果、司法判断としては「スパム投稿の自由を認めた」先駆的な判例となっています。



【大阪高等裁判所 平成23年1月20日判決】


第3 当裁判所の判断
 3 争点2 第1審被告の権利侵害の明白性
(1) 〔省略〕

(2) 前記認定事実によれば、第一審被告は、インターネット上に※※※としての業務にも関連するウェブページを開設し、あわせて、不特定多数者が書き込みをすることが可能な本件掲示板を開設し、管理していたところ、本件掲示板上に、業務と関連がなく、卑猥な内容を含むウェブページへの誘因目的が窺える広告(本件各情報)の書込みがされたことが認められる。

 本件掲示板は、前記のとおり、不特定多数者の自由な書込みを予定して開設されたものであるところ、その性格上、管理者と投稿者の間のやり取りのみならず、投稿者同旨又は不特定多数の閲覧者向けの意見・情報交換の場に使われる場合があることは当然に想定され、場合によって、管理者が掲示板を設置した趣旨と関係ない投稿や、管理者の望まない内容の情報が投稿されることも避け難いところである。他方、このような事態を望まない場合は、一般論としては、管理者が掲示板を会員制として投稿者を制限する方法や、投稿の掲載の可否を管理者の認証に係らせる方法や、予め掲示板設置の趣旨や掲載基準等を告知した上で、これに沿わない投稿がされれば、その都度、管理者の権限で、適宜自らこれを削除する措置をとるなどの方法で対応することが可能であり、各管理者のこのような対応と相まって、所期の目的に沿った掲示板の運営が確保されているのが実情といえる。

 このような点に照らすと、本件掲示板上に、掲示板設置の趣旨に沿わず、又は管理者が掲載を望まない内容の書込みがされたことのみをもって、直ちに、管理者である第一審被告との関係で不法行為に当たるとはいい難く、これが管理者の受忍すべき社会通念上相当な限度を超え、管理者の権利又は法律上保護される利益を侵害した違法な行為に当たるかどうかは、なお、書込みの意図、管理者の措置をも含めた書込みに至る経緯、内容、分量・頻度その他の諸事情を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。



(3) 以上を前提に、本件各情報の流通によって、発信者情報の開示の請求をする者(第一審被告)の権利が侵害されたことが明らかである(法4条1項1号)かどうかについて検討すると、次のとおり、第一審被告の権利が侵害されたことが明らかであるとまでは、認めるに足りないというべきである。

ア 第一審被告は、本件各情報の流通により、日常業務に重大な支障が生じたのみならず、第一審被告のウェブページを広告料の支払なく広告媒体に利用され、ネット広告ビジネスの円滑な遂行が阻害されて第一審被告の営業上の利益が侵害されたと主張する。

 しかし、本件各情報は、第一審被告が主張するように同一人の発信に係るものであったとしても、20日間に1日当たり0件又は1件程度という頻度で書き込まれたものであり、前記のような管理者としての通常の対応により対処することが特段困難なものとは認め難いし、本訴経過から明らかな第一審被告の本件各情報に対する評価からすれば、第一審被告が本件各情報の発信者から広告料を徴収した上で本件掲示板への掲載を認める意思があるとまでは考えられず、本件各情報の各書込みにより、第一審被告のネット広告ビジネス上のいかなる法的利益が害されたのか判然としない。したがって、これらの点から、第一審被告の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められない。


イ 次に、第一審被告は、卑猥なアダルト表現によりその性的プライバシー権が侵害され、社会的評価が毀損されるおそれが生じた旨を主張する。

 しかし、第一審被告の主張する性的プライバシーの侵害とは、第一審被告が見たくない性的表現を見ることを強いられた旨のものと理解されるところ、本件各情報は、内容的に露骨な性描写等を含むなど、それを閲覧する者の人格権を違法に侵害することが明らかな内容のものとまでは認めるに足りないこと、前記認定事実によれば、
本件各情報は、世上いわゆる迷惑メールとして流通するのと同様の情報が外部から投稿されたもので、第一審被告の個人的性的事項を暴露しているとか、それによって、第一審被告が自ら卑猥な内容のウェブページを運営していると一般に受け取られるようなものとまでは認めがたく、第一審被告の社会的信用を明らかに低下させるものともいえないこと、さらに、前記(2)に説示した点を踏まえ、書込みの経緯や分量・頻度等の諸事情を総合考慮すると、上記の点から、本件各情報の書込みの存在によって、第一審被告の権利が侵害されたことが明らかであるとまでは認め難い。

 なお、前記認定のとおり、第一審被告が※※※の資格を有し、法令上信用や品位を害する行為を禁止される(※※※法10条)立場にあり、本件掲示板は、第一審被告の※※※の職務に関連するウェブページに併設されていたのであるが、そうであるからといって、上記と別異に解すべきものとはいえない。また、本件各情報はアダルトサイトへの誘因目的の広告であって、思想表現として保護する必要性が相対的に乏しいと考える余地はあるけれど、その内容から表現として保護に値しないことが明らかとまではいえない場合に、発信者の利益の保護の必要性の程度といった相対的な事情により開示義務の存否が左右されることは、開示関係役務提供者による発信者情報を開示すべきか否かの判断を困難にするものであって、開示請求者の権利が侵害されたことが「明らかである」ことを開示請求の要件の1つと定めてこのような困難を減少させようとした法4条1項の趣旨に沿うものとは解されないから、上記事情も、前記判断を左右するに足りない。


ウ また、第一審被告は、良好なネット環境を享受する利益又はネット・プライバシー権が侵害されたと主張するけれども、主張に係る権利・利益の内容は極めて不明確であって、このような指摘をもって、第一審被告の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められない。



(4) したがって、
本件各情報の流通により、第一審被告の権利が侵害されたことが明らかであるとは認められないから、第一審原告は、本件各情報の発信者情報の開示義務を負わないというべきである。



(※ ネット閲覧の便宜の為、適度に、改行を挿入した。)









 ■資料 スパム投稿の一覧(ログデータ)  PDF(6.7M)


不適当な表現が多数を占めますので、その旨を御了承の上自己責任で閲覧してください。
ファイルのパスワードは、“zikosekinin”(自己責任)と英小文字の11文字です。






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