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離婚 弁護士費用(報酬)は、どのぐらい?
自由化以前の弁護士会の旧規程、事実上の基準
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≪弁護士報酬の基準、相場≫
弁護士報酬は自由化されており、法的な拘束力や弁護士会の規律というものはありません。そのため、それぞれの弁護士ないし弁護士法人が自由に金額を定めることができるのが原則です。しかし、市場原理によるとなればどんなものにも相場ができてきますので、実際には、自由化される以前に定められてた弁護士会の基準に事実上従っているところが多いとされます。
もっとも、弁護士に関わるなどというのは、一般人にとっては一生に一度あるかないかの出来事ですので、相場がどの程度のものなのかについて知識がなく、そこにつけ込んでのボッタクリも無きにしも非ずでしょう。
そこで、弁護士報酬の相場観を得るべく、一つの考え方をご紹介します。
≪離婚問題の弁護士報酬≫
離婚裁判の弁護士報酬は、一般向けのマニュアル本にもよく掲載されているのでご存知の方も多いかと思いますが、「着手金で20万円〜30万円ぐらい」というイメージがあるようです。この「30万円ぐらいまで」というイメージは、着手金に関しては誤っておりません。しかし、現実には、かなり誤ったイメージを抱かせているように感じてなりません。
まず、注意してもらいたいのは、次の3点です。
(1) 着手金と、報酬とは別に必要であること
(2) 「着手金30万円」というのは、あくまで、離婚することのみの案件であること
(3) (2)の裏返しですが、財産分与や慰謝料請求については、別料金が必要であること
どうでしょうか? 特に(3)について理解できていましたか?
一般の離婚事件で、それも弁護士に頼もうとするケースでは、普通は、慰謝料や財産分与が絡んできますので、この点を理解していないと、思わぬ金額を要求されて驚くことになりかねません。着手金については事実上30万円で済んだとしても、報酬の支払の時点では、離婚そのものの報酬にプラスして、慰謝料や財産分与によって得たお金や不動産(経済的利益)についても、その10〜20%を報酬として要求されることを覚えておきましょう。
≪設 例≫
その名もズバリ『弁護士報酬ハンドブック』(ぎょうせい)が、弁護士報酬の考え方について設例解説していますので、離婚問題についての設例解説を、ここで見てみましょう。
Q. 主人が浮気をしていることがわかりました。浮気の証拠も見つけましたし、現に浮気相手の女性と部屋を借りて出て行ってしまったので、私としても離婚したいと考えております。ただ、単に離婚するだけでは気持ちが収まらないので、慰謝料も500万円は払ってもらいたいですし、まだ小学生の子供(10歳)もいますので親権はもちろん、養育費も月額にして最低でも5万円は欲しいのです。子供の学校のこともありますので、マンション(時価1500万円相当)には今後も住んでいきたいと思っています。このような場合に弁護士さんにおねがいしたら、どのくらい費用がかかるものなのでしょうか?
(『弁護士報酬ハンドブック』45ページより)
まず、テキストでは、(ア)離婚それ自体、(イ)財産分与や慰謝料、養育費、そして、場合によっては、(ウ)親権の3つの利益区分をしています。
■(ア) 「離婚それ自体」の利益について
離婚をする・しないについては、それ自体として値段のつくようなものではありません。そこで、こういう場合は、「算定不能」というカテゴリーになりますので、「この分野はこのぐらいが相当だ」という感じで基準額が定められていました。先に見た、「離婚裁判の着手金は30万円が相場だ」というのも、昔ながらに定まってきた基準額といえるでしょう。
旧規定では、「その額は、交渉、調停については着手金として金20万円から50万円の範囲内の額、報酬としては同額、というものです。これが訴訟まで発展していった場合は、着手金として10万円以上30万円以下、訴訟までいって解決した場合には報酬として30万円から60万円の範囲内の額、となっていました。なお、訴訟から受任する場合には、着手金としては30万円から60万円の範囲内の額となっていました。この定めが原則的であり、調停等から引き続いて受任する場合には半額にする、という規定でした」と解説されています(ハンドブック・46ページ)。
■(イ) 「財産分与や慰謝料等」の利益について
これについては、金額がズバリと出てくるわけですので、それについての何%という感じで計算されることになります。
■(ウ) 「親権」の利益について
親権の取得についても、離婚そのもの場合と同様に「算定不能」ですので、カテゴリカルに定められることになります。ただ、素人にとっては何が意味ある違いがあるのかわかりづらいのですが、法的には、親権問題は、離婚そのものと違って、「家事審判事項」にあたりやや毛並みが違うので、算定額にも違いが持たされていました。
結論的には、800万円の利益とみなして算定されることになり、「離婚訴訟で請求していく場合には、着手金としては49万円、報酬としては98万円ということになり、調停等の場合には、この3分の2に減額することができ、着手金として32万円、報酬として65万円、ということになります」(ハンドブック・46ページ)。
【参考】 一般基準
経済的利益の額 |
着手金 |
報酬金 |
300万円以下の部分 |
8% |
16% |
300万円を超え3000万円以下の部分 |
5% |
10% |
3000万円を超え3億円以下の部分 |
3% |
6% |
3億円を超える部分 |
2% |
4% |
≪設例に当てはめると?≫
【交渉・調停段階の着手金】
・ 離婚自体について、30万円〜50万円
・ 財産分与(マンション)について、56万円
∵ [(300万円×8%) + (1200万円×5%)] × 2/3 = 56万円
※ 金額の水準でかける割合が異なるので、このような計算式になります。
・ 慰謝料について、22万円
∵ [(300万円×8%) + (200万円×5%)] × 2/3 = 22万円
・養育費について、20万円
∵ [(300万円×8%) + (120万円×5%)] × 2/3 = 20万円
※成年に達するまでの養育費総額が、(5万円×12ヶ月)×10年分で、その70%の420万円と算定。
・親権について、32万円
∵ [(300万円×8%) + (500万円×5%)] × 2/3 = 32万円
以上、合計、160万円〜180万円。
【訴訟段階の着手金】
・ 離婚自体について、20万円〜30万円
・ 財産分与について、42万円
∵ [(300万円×8%) +(1200万円×5%)] × 1/2 = 42万円
・ 慰謝料について、17万
∵ [(300万円×8%) +(200万円×5%)] × 1/2 = 17万円
・ 養育費について、15万円
∵ [(300万円×8%) +(120万円×5%)] × 1/2 = 15万円
・ 親権について、24.5万円
∵ [(300万円×8%) +(500万円×5%)] × 1/2 = 24.5万円
以上、合計、118.5万円〜128.5万円。
【勝訴の場合の報酬】
・ 離婚自体について、40万円〜60万円
・ 財産分与について、168万円
∵ [(300万円×16%) +(1200万円×10%)] = 168万円
・ 慰謝料について、68万円
∵ [(300万円×16%) +(200万円×10%)] = 68万円
・ 養育費について、60万円
∵ [(300万円×16%) +(120万円×10%)] = 60万円
・ 親権について、98万円
∵ [(300万円×16%) +(500万円×10%)] = 98万円
以上、合計、434万円。
≪注意点も≫
ハンドブックも、上記の計算式はあくまでも規定を形式的に適用した場合のことであると但し書きをつけています。即ち、「しかしながら、このとおり請求していた弁護士はむしろ少数であったと思います。旧規程にも、同一の依頼者から複数の事件等を受任し、かつその紛争の実態が共通であるときには、適正妥当な範囲で減額をする弁護士がむしろ一般であったといえます」(ハンドブック・48ページ)
報方、行政書士については、そのような報酬を請求することができませんので、基本的に、最初に定められた、数万円〜10万円前後までの費用で済むと思います。
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● 『Q&A 弁護士報酬ハンドブック』
東京弁護士会法友全期会 編著
(ぎょうせい 2004年4月)
弁護士報酬について知りたいのなら、この本。
一般的な計算基準とともに、個別類型に即して網羅的に設例とともに解説されているので、お探しのパターンに近いものがきっと見つかることでしょう!
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● 『要件事実マニュアル〈5〉
家事事件・人事訴訟・DV』
岡口 基一 (著)
(ぎょうせい 2010年7月)
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