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  [見せかけの争点に、騙されない](2009/10/15)


≪実際の訴訟では、みせかけの争点が膨らむ一方・・・≫


前回の講義では、「本人訴訟に適したケース」について話しました。しかし、理屈はともかく、「自分のケースが、本当に本人訴訟に適しているのか?」との不安は尽きないと思います。

例えば、売買といっても色々なケースがあり、それに応じて多様な主張が必要で、本当に、本人訴訟で大丈夫なのか? というような疑問が出てくるかもしれません。

実際、訴訟になると、よほど誠実な相手でない限り素直に事実関係を認めてくれません。むしろ、あなたの認識では嘘としか思えないような主張、即ち、いわゆる「被告の嘘」をつきますので、【見せかけの争点】だけはどんどん膨れ上がっていったりもします。

例えば、消費者金融を相手にした過払関連裁判は本人訴訟に適していると思いますが、しかし、同時に、被告となった消費者金融からテンプレート的な、そして、長大な答弁書が返ってくることは有名で、それに初めて接した者が、「こんなにも争点があるのか!」と面食らわされる典型的なケースでもあります。

また、弁護士がつくと、その傾向が顕著になります。


しかし、
相手がたくさん反論してくることが、すぐに、法律上意味のある争点となっているかといえば、まったくの別問題です。従って、本当にその争点を論じる必要があるのか、できる限り冷静に見定める必要があります。

ただ、相手の奇怪な主張に付き合う必要はなくとも、付き合ってはいけないという理由もありません。本人訴訟の場合、特に、「相手の不誠実さや嘘を糾弾したい」というケースが多いので、その気持ちをぶつける為にあえて反論することは、本人訴訟の特質として、裁判官もかなり寛大に処してくれるのではないかと思います。




≪真の争点か否かは、証拠の手堅さから判断≫


さて、「見せかけの争点」であるか否かを見分けるには、手持ちの証拠の手堅さを、重要な指標にしてください。

例えば、貸したお金の返済を請求する場合において、【言い逃れのできない契約書】(借用書その他)があり、その契約の弁済期から長期間経過しておらず、時効のことを心配する必要がない場合があげられます。

他方、名前と金額を殴り書きした程度のメモみたいなものしかない場合、あるいは、何らかの事情から、契約書が事実を反映しない形で作成されている場合など、証拠の点がかなり不安になってきます。


ともあれ、証拠が手堅いのであれば、相手の無駄な主張にいちいち応対する必要はありません。

意外なことかもしれませんが、『訴状』に対する『答弁書』についてはやや特別な取り扱いが為されているものの、その後に提出する『準備書面』に関しては、
いちいち相手の主張に対して回答や反論する必要は、必ずしもないのです。既に為した主張で事足り、反論の必要をみないのであれば、無視しても良いのです。また、不利益な点の指摘については、主張するだけやぶ蛇になりかねないので、あえて沈黙を保ったりすることも往々にしてあります。

まさに、本人訴訟では、これらの点を知らない為に、相手にばかりネタになる材料をプレゼントして、自分だけを不利に追い込んでしまう傾向にあります。実際のところ、ここにプロと素人との差があるのではないか、とすら思ったりもします。なので、思い切って、こういう風に考えてください。即ち、「
訴訟は、被告とやっているのではない。裁判官とやるものだ」と。そうすれば、何を重点的に訴えていく必要があるかも、おのずと明らかになってくると思います。


第一に、自分の請求を認めさせる上で、基本的な部分の主張です。例えば、売買ケースであれば、売買契約を締結したこと、そして、自分の債務は履行したこと。

第二に、相手側からの反論のうち、説明を要すると認めた事柄。例えば、弁済したとの【主張】とともに、振込み記録のある通帳などを【証拠】として提出してきた場合、その入金代金が別の支払いに対するものであること、など。

第三に、簡単にあしらっておけばよいという点について、ひと言二言で、「その主張は事実に反している」とでも。


以上、先の展開をある程度予想して、相手から出てきそうな反論が、真の争点となり、かつ、それが自分の手に負えるものあるか、を検討してみてください。なお、あまりに証拠が貧弱な場合、逆に、弁護士に任せても勝てる可能性は変わりませんので、ご自身でやった方が経済的かもしれません。この判断は、別に吟味してください。




≪安全類型を探す≫


さて、これまで述べてきたような安全類型か否かの判断について、別の観点からアドバイスを。


まずは、見分けるには、的を絞った勉強をすることです。

単純な売買や請負、お金の貸し借り、滞納家賃の支払請求など、普通の市民の日常生活に密接していて、馴染み深い問題については、歴史的に解決の指針が法律、つまり、民法という形で示されていますので、この安全類型にあたることが多いといえます。

従って、まずは、自分の紛争と係わり合いのある部分について、定評のある民法の教科書を読んで研究してみてください。例えば、最近のテキストで言えば、東大の内田貴教授のテキスト(東京大学出版会)などがあげられます。

また、その際には、「債権各論」という巻を探してください。債権各論では、売買や請負、賃貸借といった個別の契約類型ごとに解説が加えられていますので、そこから必要な箇所、おそらくは10ページほどもないと思いますが、それに目を通してください。そうすれば、自分の紛争に関して、争いとなり得る論点が、どこにあるのかを知ることができるはずです。このようにして、自分の紛争が、先の安全類型に当たると思えれば、しめたものです。


次いで、無料法律相談で、弁護士の簡単なコメントをもらってみると良いでしょう。お手持ちの資料を持って、市役所などで開催されている無料法律相談の場で相談し、その際の、弁護士の反応を窺うことで、おおよその感触がつかめることも多いと思います。

その際には、例えば先の貸金返還請求のケースでは、「この契約書で十分でしょうか?」「時効は10年と聞きましたが、私のケースでも、10年でよろしいのでしょうか?」などの点を聞いておけば、良いかと思います。









 ● 訴訟のあれこれ編
   1 “まずは知ろう「裁判にかかる費用」”
   2 “弁護士に頼むべきか、自分でやるべきか”
   3 “見せかけの争点に騙されない”
   4 “「本人訴訟は不利である」、改めて、その覚悟を”
   5 “100人の弁護団?”
   6 “もう一度確認、本当に、訴えて割に合う?”
   7 “民事訴訟に関する法律や手続きを、学習する”
   8 “要件事実とは、何ですか? どう活用するの?”


   〆 民事訴訟一般の解説 (鳥取地裁・家裁HP)

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LawSchool 目次

T 訴状編
【訴状】の書き方などの解説。

U 答弁書編
【答弁書】、【準備書面】などの解説。

V 本人訴訟編
本人訴訟をする上での初歩的な心構え。

W ネットトラブル編
ネットにかかわる各種トラブルの各論。



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  >> 専門家でない普通のあなたが裁判をするには? そのノウハウを解説












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§お勧め資料§




● 『法務担当者のための
  民事訴訟対応マニュアル』
  田路 至弘  編著
  (商事法務 2005年10月)

民事訴訟手続きの全般について、本格的な解説およびサンプル書式がそろった、一般向けのマニュアル本です。

目次ページで紹介した新銀座の『Q&A』から、次のステップアップにはこの本が適当ではないでしょうか。

執筆人は弁護士ですし、また、出版社も法律専門誌を扱う商事法務、そして、この本のメインのターゲットがそのタイトルにもあるように企業の法務担当者ですので、本書の全般的な評価としては、内容面において使い勝手の良いマニュアル本だと思います。





● 『書式 民事訴訟の実務』
大島 明(民事法研究会 2012年5月)

民事訴訟をする上での基本的な手続きの解説とともに、書式のサンプルが載っている実務書です。各種の訴訟類型ごとの訴状・準備書面等の記載例も載ってもいます。

書式のサンプルを探しているような初心者の場合、不確かなネットのものよりも、まずは、著者が明らかな、こういうテキストの記載例を参照することの方が無難だと思います。





● 『民法2 債権各論(3版)』
内田貴(東京大学出版会 2011年)

定評のある民法のテキスト。債権各論は、売買、金銭消費貸借、請負といった個別の契約類型ごとの解説となっています。







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