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[被告の氏名・住所が分からない! そんなときは、どうしたら?]
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≪相手さんの氏名・住所(居所)が分からないと、原則、裁判はできません≫
裁判をするには、最低限、被告となる者の氏名、及び、住所(ないし居所)の二つが必要となります。ところが、いざ訴訟をしてみようと思ったときには、この二つの情報が、ともに調べがつくとは限りません。
ところが、この二つの情報によって【被告の特定】ができないと、訴状審査によって訴状(訴え)が却下されてしまいます。
この点、例えば、知り合いにお金を貸したというようなケースであれば、それなりの代替手段が用意されています。転居先などを調べるにしても、貸し金にかかる契約書などがあれば、債権者との立場で住民票などを取り寄せることができますし、あるいは、(少なくとも、契約時の住所地などを指定して)公示送達などの最終手段も用意されています。
しかし、例えば、「オレオレ詐欺」の事案などになると、「振込先の口座番号」と「カタカナ名での口座名義人」ぐらいしか、知るものがありません。つまり、「氏名不詳・住所不詳」で相手を訴えるほか、術がないのです。
そこで、「口座番号と、口座名義人のカタカナ名」をもってしての【被告の特定】が許されるのか、が問題となります。
≪名古屋高等裁判所金沢支部12月28日決定 平成16年(ラ)第99号≫
この点が争われた事例として、名古屋高等裁判所金沢支部12月28日決定があります。
結論は、「【被告の特定】方法として(一応)許される」とするものでした。
なお、訴状(訴え)が却下になったことから、即時抗告(民訴137条3項)によって争われた事案です。決定文を、こちらに転載・ご紹介しておきます。公刊物未搭載判例でありながら、非常に重要な裁判例です。
≪裁判例≫ ********************************************************
平成16年(ラ)第99号 訴状却下命令に対する即時抗告事件
(基本事件:富山地方裁判所平成16年(ワ)第315号)
決 定
富山県 ○○○○
抗告人(基本事件原告) ○○
同訴訟代理人 弁護士 ○ ○ ○ ○
住所不詳
相手方(基本事件被告) ヨシザワジュンイチ
主 文
原命令を取り消す。
理 由
第1 本件抗告の趣旨及び理由
別紙の「即時抗告の申立書」に記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 本件は,抗告人(基本事件原告)が,氏名不詳の者から騙されて「ヨシザワジュンイチ」名義の銀行預金口座に100万円を振込送金して同額の損害を被ったことから,上記預金口座の名義人の「ヨシザワジュンイチ」に対し,不法行為に基づき,上記の100万円,慰謝料10万円,弁護士費用10万円の合計120万円及びこれに対する平成16年8月2日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた訴訟において,訴状の被告の住所及び氏名の表示として,「住所不詳,ヨシザワジュンイチ」と記載したところ,原審裁判所が,抗告人に対し補正を命じた上,被告の住所及び氏名が特定されていないとして訴状を却下したため,これを不服とする抗告人が本件抗告を申し立てた事案である。
2 記録によれば,抗告人は,訴状において,不法行為に基づく損害賠償請求の相手方である被告の表示につき,被告名を「ヨシザワジュンイチ」と,住所地を「住所不詳(後記する振込先預金口座の登録住所)」とそれぞれ記載した上,その振込先預金口座として,「三井住友銀行永山支店,普通預金,口座番号○○,名義人ヨシザワジュンイチ」と記載していることが認められる。
そして,銀行預金口座を開設するに際しては,口座開設者の氏名,住所等を記入した申込書の提出を要すること(顕著な事実。しかも,書類等により口座開設者が本人であることの確認などもすべきものとされている。)を踏まえると,抗告人は,上記預金口座を開設した自称「ヨシザワジュンイチ」なる人物を本件の被告として訴訟を提起したことが明らかである。
3 なるほど,訴状の被告名は上記預金口座の名義人である片仮名の名前にすぎず,しかも,住所表示(訴状送達の便宜等のために有益であり,また,被告を特定する上で有用であることから実務上記載されるのが一般である。)は「不詳」とされている。しかし,抗告人は,本件訴訟提起前に,弁護士照会等により,所轄の滑川警察署長及び上記預金口座のある三井住友銀行永山支店宛に「ヨシザワジュンイチ」の住所及び氏名(漢字)を問い合わせるなどの手段を尽くしたものの,協力が得られず,やむなく上記の記載の訴状による訴えを提起したことが認められる。そして,抗告人は,本件訴訟提起と同時に上記銀行に対する調査嘱託を申し立てているところ,これらの方法により,「ヨシザワジュンイチ」の住所,氏名(漢字)が明らかとなり,本件被告の住所,氏名の表示に関する訴状の補正がなされることも予想できる。
したがって,本件のように,被告の特定について困難な事情があり,原告である抗告人において,被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には,訴状の被告の住所及び氏名の表示が上記のとおりであるからといって,上記の調査嘱託等をすることなく,直ちに訴状を却下することは許されないというべきである。
4 よって,本件訴状却下命令を取り消すこととして,主文のとおり決定する。
平成16年12月28日
名古屋高等裁判所金沢支部 第2部
裁判長裁判官 安江 勤
裁判官 渡邊和義
裁判官 田中秀幸
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● 『要件事実マニュアル 第3版』
岡口 基一(ぎょうせい 2010年)
今や、どの実務家の書棚にも鎮座している類の本。要件事実の定番本。
旧版までは、民法などの実体法を理解する為には、あまり使い勝手が良くありませんでしたが、上下巻・2文冊セットが、5冊シリーズへとボリュームアップしたことに象徴されているように、基本的知識や参考文献リストなど、学習にも配慮されたものになっています。
要件事実本の中では、項目が網羅的に収められていて便利である上、どこが要件事実の項目であるかも、視覚的に分かりやすく(解説と)分離されており、比較的調べやすいと感じます。
また、それぞれの項目で、「よって書き」についての記載例などもついており、初心者にとってはありがたいものといえるでしょうか。
【目次】
第1巻(民法)
第1編 総論
1 要件事実論総論
2 民事訴訟一般
第2編 民法1
1 民法総則
2 物権
3 債権総論
第2巻(民法)
第3編 民法2
4 契約総論
5 契約各論1
6 契約各論2
7 不法行為
8 親族・相続
9 不動産特別訴訟
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>> 専門家でない普通のあなたが裁判をするには? そのノウハウを解説
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§お勧め資料§
● 『法務担当者のための
民事訴訟対応マニュアル』
田路 至弘 編著
(商事法務 2005年10月)
民事訴訟手続きの全般について、本格的な解説およびサンプル書式がそろった、一般向けのマニュアル本です。
目次ページで紹介した新銀座の『Q&A』から、次のステップアップにはこの本が適当ではないでしょうか。
執筆人は弁護士ですし、また、出版社も法律専門誌を扱う商事法務、そして、この本のメインのターゲットがそのタイトルにもあるように企業の法務担当者ですので、本書の全般的な評価としては、内容面において使い勝手の良いマニュアル本だと思います。
● 『書式 民事訴訟の実務』
大島 明(民事法研究会 2012年5月)
民事訴訟をする上での基本的な手続きの解説とともに、書式のサンプルが載っている実務書です。各種の訴訟類型ごとの訴状・準備書面等の記載例も載ってもいます。
書式のサンプルを探しているような初心者の場合、不確かなネットのものよりも、まずは、著者が明らかな、こういうテキストの記載例を参照することの方が無難だと思います。
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