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代理人との報酬トラブル 回収金6割のぼったくり!?
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≪回収金の約6割が、報酬に消えた!≫
出口直前の落とし穴・・・、それが、自分の代理人弁護士・司法書士との報酬トラブルです。
その端的な事例が、東京地判平成21年1月21日判例タイムズ1301号234頁(平成19年(ワ)第21475号、平成19年(ワ)第35374号)の事案です。この事案で、認定司法書士は、過払い回収金約270万円の約6割(約162万円)を報酬等として天引きしていました。
この事案で、契約書の報酬の定めは、次のようになっていました。
@債権調査・着手金 ¥140,000
A経費 ¥ 35,000
B報酬 ¥140,000
Cその他報酬
任意整理減額報酬… 債権者主張額と和解額差額の10.5%,過払い返還金額42%
応訴,過払金返還交渉及び訴訟・1社5万円(裁判所予納金等別途)
分割弁済事務・1社に付き1月毎に1,000円
裁判所は、「被告が報酬規定から更に減額したとして受領した報酬の161万9070円は過払金回収額の59.98%に上るのであって、原告は被告に対し極めて高額な報酬を支払わなければならないことになるが、これは債務整理を依頼した原告の納得が得られるものとは到底考えられないのであり、原告にCを含めて説明をして納得を得たとする点は不自然である」などと述べて、当該報酬の合意を無効(不存在)であると判断しました。
結論的には、司法書士に、@着手金14万円、A経費3万5千円、B報酬について合意の有効性を認めた上で、Bについて、「受任事務のうち5割を終了したものと評価することができる」として7万円の計24万5千円の受領権限を認めました。そして、回収金269万9000円から、既に返還した101万5972円と、上記報酬等24万5千円とを控除し、残額143万8028円の不当利得の返還を命じました。
≪驚くべき、報酬実態??≫
上記の事案から、参考までに、報酬等の体系を考えてみましょう。
(1) まず、着手金・報酬の額が、それぞれ14万円。つまり、28万円。
これは、おそらく、認定司法書士の代理資格が(当時)訴額140万円まででしたので、その1割という定め方をしたのではないかと思われます。
これのみであれば、一般的な報酬の定めといえるでしょう。しかし、上記の通り、実質的な報酬の上乗せがあり、それが暴利だったというわけです。
後記のように、過払金返還請求訴訟によった場合、「回収額の42%+任意整理減額として更に10.5%」の計52.5%が、持っていかれるという仕組みです。
(2) 次に、経費3万5千円。
おそらくは、どんぶり勘定で、「こんなもの」という感じの定めであり、よくある話です。安くはありませんが、一見すると、(他と比べて)高すぎる定めでもないように感じます。1社あたり5千円として、交通通信費・その他雑費に使用し、原則として過不足については清算しない、と定めていたようです。
ただ、裁判費用などの「文字通りの実費」は別途計上しているようです。例えば、【Cその他報酬】の、「応訴、過払金返還交渉及び訴訟・1社5万円(裁判所予納金等別途)」という項目です。従って、実質的には、「不足した場合は実費を徴収しますが、あまった場合は清算しません」と定めているようなものだといえます。
ちなみに、簡易裁判所において訴額140万円の訴訟をする実費として、5万円も要しません。2万円で、お釣りがくるのが一般です。
なお、「Cその他報酬」の意義については、他に、次のように説明されています。
- 【Cその他報酬】は、「B報酬」の定額報酬14万円とは別途、報酬を受領する趣旨であること。
- 「任意整理減額報酬」とは、任意整理手続において債権者と和解をして債権者主張額から債権額を減額した場合にはその差額の10.5%を報酬として受領するという意味であること。
- 「過払い返還金額42%」とは、貸金業者等から過払金返還請求をして過払金を受領した場合には、その額の42%を報酬として受領するという意味であること。
- 貸金業者に対し過払金返還請求をする場合には、任意整理減額も実現したものとして任意整理減額報酬を受領するとともに、返還を受けた過払金の42%を報酬として受領することを意味するものであること。
- 同一の債権者が複数の債権を有している場合各債権毎に個別案件となる。裁判所費用として自己破産の場合3万円(同廃案件)・民事再生の場合25万円ほど掛かります。
◆ 報酬等の明細資料
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■ 平成18年10月13日付け「精算書(領収書)」
「整理方針 任意整理 債権者数7社(人)
収支報告 1 入金合計 ¥1,719,000
2 出金合計 ¥1,732,151
未集金 ¥−13,151
3 管理口座残高 ¥0
内訳
1 入金について ¥1,719,000
※詳細については,別紙入金表記載の通り
2 出金について 合計 ¥1,732,151
T 事務所経費・裁判所費用の合計 ¥35,000
U 報酬等の合計 ¥1,697,151
報酬内訳
@ 債権調査・着手金 ¥140,000
A 基本報酬 ¥140,000
B その他報酬 ¥1,417,151
内訳
(T) 減額報酬(詳細は別紙明細書参照) ¥1,217,151
(U) 過払い訴訟 ¥200,000
送金管理料@ ¥1,000 ¥0
V 業者ヘの返済 現在までの返済金 ¥0
※詳細については,別紙返済明細表記載の通り」
その2枚目(入金状況表)には,次の記載がある。
「合計 ¥1,719,000
入金日 入金額 摘要
1 平成18年6月7日 ¥20,000 手渡し
2 平成18年8月14日 ¥199,000 アイフル(株)過払金
3 平成18年10月13日 ¥2,500,000 (株)武富士過払金
4 平成18年10月13日 ¥−1,000,000 本人返金」
その3枚目(減額報酬明細表)には,次の記載がある。
「※減額報酬1…債権者主張の元金と和解金額との差額の5.25%相当額
※減額報酬2…過払金返還額の36.75%相当額の合計額
減額報酬1及び2の合計額(税込) ¥1,217,151
債権者主張の元金 ¥1,671,417
和解金額 ¥0
減額報酬1 ¥83,571
過払金返還額 ¥2,699,000
減額報酬2 ¥1,133,580」
なお,被告は,原告から受け取る報酬額につき,本件契約書では過払金返還額の42%としていたのを36.75%に減額したとした。
■ 平成19年1月29日付け「精算書(領収書)」
「 整理方針 任意整理 債権者数6社(人)
収支報告
1 入金合計 ¥1,635,042
2 出金合計 ¥1,619,070
余剰金 ¥15,972
3 管理口座残高 ¥0
内訳
1 入金について ¥1,635,042
※詳細については,別紙入金表記載の通り
2 出金について 合計 ¥1,619,070
T 事務所経費 ¥30,000
U 報酬等の合計 ¥1,589,070
報酬内訳
@ 債権調査・着手金
1社金2万円計6社 ¥120,000
A 基本報酬
1社金2万円計3社 ¥60,000
B その他報酬 ¥1,409,070
内訳
(T) 減額報酬(詳細は別紙明細書参照) ¥1,309,070
(U) 過払い訴訟 1社5万円計2社 ¥100,000
送金管理料@ ¥1000 ¥0
V 業者への返済 現在までの返済金 ¥0
※詳細については,別紙返済明細表記載の通り」
その2枚目(入金状況表)には,次の記載がある。
「合計 ¥1,635,042
入金日 入金額 摘要
1 平成18年6月7日 ¥20,000 本人入金
2 平成18年8月14日 ¥199,000 アイフル(株)過払金
3 平成18年9月5日 ¥−100,000 丙川大介への出金
4 平成18年10月13日 ¥2,500,000 (株)武富士過払金
5 平成18年10月13日 ¥−1,000,000 本人返金
6 平成19年1月29日¥16,042丙川大介からの入金」
その3枚目(減額報酬明細表)には,次の記載がある。
「減額報酬1及び2合計額(税込)¥1,309,070」
(11) 被告は,平成19年2月14日に原告代理人に対し1万5972円を送金した。原告はこの全額を本件請求額(元本)に充当した。
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● 『Q&A 過払金返還請求の手引(4版)』
名古屋消費者信用問題研究会 編著
(民事法研究会 2010年6月)
過払金返還請求訴訟を(自分で)やろう思うなら、お勧めなのが、この本。
基本的な論点となるべき箇所が網羅され、その上、各種訴訟資料のサンプル、利息計算用のエクセルシートのデータファイルまで付属されており、実務者向けの完全なマニュアル本となっています。
値段的には、3版の3000円からするとやや高くなりましたが、執筆者が弁護士なので、内容面での正確性にも安心があります。
この本を買って手元に置きつつ、なお不明な点について他の本を立ち読みなどでつまみ食いすれば、事足りるのではないでしょうか。
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§お勧め資料§
● 『簡裁消費者訴訟の実務』
司法書士執筆の訴訟実務本。消費者訴訟の分野について、主要な領域がカバーされており、かつ、近年過払いバブルに湧いていた司法書士業界だけあって、過払金返還請求などに取り組もうとする駆け出し実務家向けのマニュアル本(専門書)となっています。
従って、過払金返還請求を初めとした債務問題で、本人訴訟を考えるのであれば、これをお勧め。
訴状記載例などの書式サンプルも豊富なうえ、記載例それ自体もある程度のまとまりのあるものとなっており、素人には非常に参考になるのではないかと思われます。
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