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過払金トラブル                                 目次へ戻る


  消費者金融が倒産したら、過払金(返還)はどうなるの?
  更生債権届出がなされなかった過払金返還請求権



≪更生債権届出がなされなかった過払金返還請求権≫


更生債権届出がされなかった過払金返還請求権が失権すると判断した平成21年12月4日判決についての評釈で、後掲参考文献のうち、岡論文では、今後はそのような心配をする必要はないとの趣旨の記述がされています。

即ち、「本件は、過払金返還請求権の法理が飛躍的に発展する前夜の会社更生事件に関する問題であり、過渡期問題ともいうべき特殊事案である。前述したように、現在では過払金返還請求権は倒産債権として取り扱う実務が確立されており、倒産実務において同じ問題が起きることはない」(後掲242頁)と、なお書きされています。


ところが、(岡論文を参照して書かれた)中村論文においては、その実務についての危惧を一般人に覚えさせるような記述がされています。

即ち、「現行会社更生規則42条は、管財人に『知れている更生債権者等であって、いまだ更生債権等の届出をしておらず、かつ、法第138条第1項に規定する債権届出期間内に当該届出をしないおそれがあると認められる者に対し、当該債権届出期間の末日を、当該末日までの間に当該届出をするのに必要な期間をおいて通知するものとする』と定めているところ、同規定のもとで本判決が維持されるかが問題となりうる。この点に関し
、同規定が訓示規定であることから管財人〔ママ 「債権者」の誤りか?〕に通知がされなくても失権の効果に直接影響がないとされ、管財人が更生債権者等に対して当然に損害賠償責任を負うものともいえないと解されていること等から原則的に維持されると解する見解がある。本判決の判断が会社更生手続の安定を重視するものと解すれば、現行規則のもとでも維持されることが予測される。したがって、今後、貸金業者が会社更生手続を開始した場合、過払金返還請求権を有する(と思われる)顧客等は本判決を前提に行動する必要があろう。
  他方で、本件の更生手続当時は過払金返還訴訟は多く提起されていなかったが、現在ではこの状況は一変している。この点に鑑みれば、今後、
会社更生手続を行う貸金業者には、法的な義務とは解せなくても、何らかの形で顧客に対する債権の届出を促す行動が求められよう。武富士の会社更生手続が平成22年10月31日に開始決定されたところ、未請求の顧客に届け出が呼びかけられているのは、かかる行動の要請を反映しているといえるであろう」(同論文182-183頁)と。


要するに、実務の常道から逸れた場合、それに対して法的に何らのペナルティも課されるものではありませんので、結局、債権者の側で気をつけておくほかない、ということです。「債権の存在についての知不知というリスクが債権者に割り当てられていること」に変わりがないのです。



【参考】

〆 岡正晶「更生債権届出がなされなかった過払金返還請求権」民商142巻2号100ページ
〆 中村肇「更生会社であった貸金業者において...」判評623号15ページ
〆 高橋譲「判批」金法1906号23ページ
〆 田中幸弘「二つの最高裁判決と実務対応への示唆」金法1906号25ページ



 ◆ 最判平成21年12月04日判決 平成21(受)319事件

(届出期間内に届出がされなかった更生債権である過払金返還請求権について)


4(1) 前記事実関係によれば,管財人等は,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや,更生債権の届出をしないと被上告人が当該更生債権につきその責めを免れることにつき注意を促すような措置を特に講じなかったというのである。

 しかし,更生計画認可の決定があったときは,更生計画の定め又は法律の規定によって認められた権利を除き,更生会社がすべての更生債権につきその責めを免れるということ(以下「失権」という。)は,更生手続の根本原則であり,平成14年法律第154号による改正前の会社更生法(以下「旧会社更生法」という。)においては,更生会社の側において,届出がされていない更生債権があることを知っていた場合であっても,法律の規定によって認められた権利を除き,当該更生債権は失権するものとされており,また,更生債権者の側において,その責めに帰することができない事由により届出期間内に届出をすることができず,追完もできなかった更生債権についても,当然に失権するものとされていた。以上のような旧会社更生法の規定の内容等に照らすと,同法は,届出のない更生債権につき失権の例外を認めることが,更生計画に従った会社の再建に重大な影響を与えるものであることから,更生計画に定めのない債権についての失権効を確実なものとして,更生手続につき迅速かつ画一的な処理をすべきこととしたということができる。

 そうすると,管財人等が,被上告人の顧客の中には,過払金返還請求権を有する者が多数いる可能性があることを認識し,あるいは容易に認識することができたか否かにかかわらず,本件更生手続において,顧客に対し,過払金返還請求権が発生している可能性があることや更生債権の届出をしないと失権することにつき注意を促すような措置を特に講じなかったからといって,被上告人による更生債権が失権したとの主張が許されないとすることは,旧会社更生法の予定するところではなく,これらの事情が存在したことをもって,被上告人による同主張が信義則に反するとか,権利の濫用に当たるということはできないというべきである。そして,このことは,過払金返還請求権の発生についての上告人らの認識如何によって左右されるものではない。


(2) 前記事実関係によれば,被上告人の保全管理人は,新聞紙上に「ライフカードは,これまで通りお使いいただけます。」という見出しで本件社告を掲載し,従前どおりの取引を継続するよう求めたというのであるが,本件社告は,カード会員の脱会を防止して会社再建を円滑に進めることを目的として行われたものであって,その目的が不当であったとはいえず,その内容も,顧客に対し更生債権の届出をしなくても失権することがないとの誤解を与えるようなものではなく,その届出を妨げるようなものであったと評価することもできない。そうすると,本件社告が掲載されたからといって,被上告人による失権の主張が信義則に反し,権利の濫用に当たるということはできない。


(3) さらに,前記事実関係によれば,約定利率により計算をした元利金の残債権額をもって顧客との間の金銭消費貸借取引を管理していた被上告人が,これを前提としてその評価がされた営業資産をもって,資金を調達することができたことや,過払金返還請求権を更生債権として届出する者がわずかであったということが,会社の早期再建に寄与したということはできるものの,このような事情があったからといって,上記の判断が左右されるものでもない。

 そして,他に,被上告人による失権の主張が,信義則に反し,権利の濫用に当たると認められるような事情も見当たらない。


(4) 以上によれば,被上告人において,上告人らの過払金返還請求権が失権したと主張することが,信義則に反するとも,権利の濫用であるともいえない。




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