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過払金トラブル                                 目次へ戻る


  債権届出がされなかった過払金返還請求権の帰趨
  最判平成23年03月01日



≪弁済期の到来、遅延損害金の発生時期≫


届出のなされなかった【再生】債権である過払金返還請求権に関して、最判平成23年03月01日が新たな判断を示しています。

上告審で直接の争点とされたのは、「弁済期の到来」の問題でしたが、これについては、消費者金融側の主張を容れて、「その弁済期は,本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来していないことが明らかである」と判断しています。要するに、遅延損害金が当該裁判の確定日以降からしか発生しないと判断しています。

(※ 正確には、認可された再生計画によって定められた条件である、債権確定後3ヶ月後。)




≪債権届出期間経過後の請求は可能か?≫


この裁判では争点となっていないのですが、実は、この裁判で一審原告が請求している過払金は、再生債権の届出期間に届出がなかった過払金であるという点が、特徴的です。これはどういうことなのでしょうか?


一般には、債権届出期間経過後においては、法的倒産的続きを経た相手には請求できないと考えておくのが無難なのではありますが、過払金裁判に関しては、やや事情を異にします。

ただし、既に、更生債権に関して問題となった最判平成21年12月04日判決など昨年の一連の判例では、信義則云々を主張したところで、原則論どおり、失権してしまった権利について請求することは許されないとの判断が示されており、その意味では、一般のケースと変わりないありません。

しかし、それらの事案で紛糾したように、法的な問題とは別に、道義上の問題として、過払金裁判のように、自分が債権者であることもあまり認識できていない一般人が多数にのぼるであろう点に特徴を有する事案において、本当に、無考慮に切り捨ててよいのか、という観点から批判が強いことも確かなのです。

そこで、実務では、
更生計画や再生計画において、「過払金返還請求権に関して、特別に扱う条項をおく」ケースがあるのです。そして、そのようなケースの場合、債権届出期間経過後であっても、なお請求していく余地があることを知っておくことが必要です。



本件も、どうやらそのケースだったようで、以下のように再生計画で定められていたと事実認定されています。

     本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権(その利息,損害金等の
    請求権を含む。以下同じ。)について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出が
    あった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるとともに,要旨次のとおり,権利の変更の
    一般的基準を定める。

    ア 確定した再生債権(本件再生手続開始決定の日以降の利息,損害金を除く。以下同じ。)
     の40%相当額を弁済し,その余につき免除を受ける。ただし,確定した再生債権の額が30
     万円以下である場合はその全額を,30万円を超える場合は40%相当額と30万円の多い方
     の額を弁済する。

    イ 届出のない再生債権である過払金返還請求権については,その債権者により請求がされ,
     再生債権が確定した時(訴訟等の手続がされている場合には,その手続によって債権が確定
     する。),上記アのとおり権利の変更を受け,その時から3か月以内に,上記アに定める額を
     弁済する。



従って、債権届出期間が既に経過してしまっている場合でも、なお、過払金に関しては弁済を受けられる可能性がありますので、いちど倒産企業へ問い合わせて、あるいは、裁判所に利害関係人(債権者)であるとして再生・更生計画の閲覧を求めるなどして、この点の特別規定がないかを確認してみるべきだと思われます。



【参考】

 ◆ 最判平成23年03月01日判決 平成22(受)798事件

(届出期間内に届出がされなかった再生債権である過払金返還請求権の帰趨)


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1) 民事再生法178条本文は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生計画の定め又は同法の規定によって認められた権利を除き,再生債務者は,すべての再生債権について,その責任を免れると規定する。そして,同法179条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,届出債権者等の権利は,再生計画の定めに従い,変更されると規定し,同法181条1項は,再生計画認可の決定が確定したときは,再生債権者がその責めに帰することができない事由により届出をすることができなかった再生債権(同項1号)等は,再生計画による権利の変更の一般的基準(同法156条)に従い,変更されると規定する。


(2) 前記事実関係によれば,本件再生計画は,届出のない再生債権である過払金返還請求権について,請求があれば再生債権の確定を行った上で,届出があった再生債権と同じ条件で弁済する旨を定めるが,これは,過払金返還請求権については,届出のない再生債権についても一律に民事再生法181条1項1号所定の再生債権として扱う趣旨と解され,上記過払金返還請求権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更され,その再生債権者は,訴訟等において過払金返還請求権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,上記のとおり変更されたところに従って,その支払を受けられるものというべきである。


(3) 以上によれば,本件再生債権は,本件再生計画認可決定が確定することにより,本件再生計画による権利の変更の一般的基準に従い変更されており,被上告人は,訴訟等において本件再生債権を有していたこと及びその額が確定されることを条件に,その元利金31万3152円のうち30万円について,本件再生債権が確定された日の3か月後に支払を求めることができる本件債権を有するにとどまるものというべきであり,その弁済期は,本件訴訟の口頭弁論終結時にはいまだ到来していないことが明らかである。




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