拍手で応援
お願いします♪
|
Lawschool 趣味の法律セミナー
[小額訴訟と支払督促、その選択は?]
|
本人訴訟を検討している場合、何かと良く出くわすのが、「小額訴訟」と「支払督促」です。
マニュアル本を斜め読みしている限りでは、どちらも似通った制度であり、どちらが自分の案件の解決に適しているのか、判然としないことも多く、その選択に迷うこともあるのではないでしょうか?
そこで、今回は、両制度の違いを見てみましょう。
なお、両制度の基本的な知識は、文末掲載の最高裁HPの解説で得られます。
≪小額訴訟から見た場合≫
小額訴訟の他方の制度に比べての特色は、あくまでも、訴訟手続である、という点です。意外に知られていないのか、支払督促というのは、訴訟ではありません。従って、小額訴訟には、既判力という判決の効力が生じますが、支払督促にはそのような効力は生じません。
具体的には、執行段階において、小額訴訟であれば判決時点以前の事由を持ち出して異議を申し立てることはできませんが、支払督促の場合、裁判以外の債務名義として、送達後に新たに生じた事由であるか否かを問わず、全ての事由を異議事由として請求異議訴訟が提起できる、という違いとなって現われてきます。
要するに、起訴責任が転換されるとはいえ、支払督促では、実質的な紛争解決にはつながらない可能性があります。
次に、小額訴訟の特色は、権利変更が可能である、という点が指摘できます。次の規定が、それです。
(民事訴訟法375条:判決による支払の猶予)
|
1項
裁判所は、請求を認容する判決をする場合において、被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは、判決の言渡しの日から三年を超えない範囲内において、認容する請求に係る金銭の支払について、その時期の定め若しくは分割払の定めをし、又はこれと併せて、その時期の定めに従い支払をしたとき、若しくはその分割払の定めによる期限の利益を次項の規定による定めにより失うことなく支払をしたときは 訴え提起後の遅延損害金の支払義務を免除する旨の定めをすることができる。
2項
前項の分割払の定めをするときは、被告が支払を怠った場合における期限の利益の喪失についての定めをしなければならない。
3項
前二項の規定による定めに関する裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
|
要するに、債権者の債権の存在が確認されても、その支払方法につき、3年以内で、支払猶予、または、分割払いとすることができるというものです。これは、裁判所の裁量判断によるものです。つまり、債権者の同意は必要ありません。
従って、債務者としては支払うつもりはあるが、直ちにではなく、いくらか待ってほしいというようなケースでは、役立つ特則であるといえます。
≪支払督促から見た場合≫
支払督促とは何か、と言えば、その専門的な定義は他に譲るとしますと、次のように言えます。
即ち、執行受諾文言付の公正証書の事後版であり、簡易な債務名義の付与手続きです。つまり、契約時に公正証書を作成していればそれを債務名義として直ちに執行手続きができますので、改めて支払督促など利用しないでしょう。ところが、そのような周到な用意をしていない場合、簡単に債務名義を得られるようにしたのが、この支払督促なのです。
支払督促の対象が、金銭その他代替物等の給付を目的とする請求権に限っているところなど、何とも、執行受諾文言付公正証書と似ています。もっとも、小額訴訟も、60万円以下の金銭支払を請求する場合に限られてはいますが。
また、支払督促の他方の制度に対する特色は、書面審査で終わる、という点があげられます。他方、小額訴訟では、原則一日とはいえ期日がありますので、その手間の差があるといえるのではないでしょうか。
なお、両制度ともに、通常訴訟への移行が、適切な期間内の異議一つで簡単にできます。そうすると、相手方の出方を様子見したいというようなケースでは、書類審査で終わる支払督促によって小突いてみるのが良いかもしれません。
≪費用について≫
小額訴訟の場合、印紙代として、例えば、訴額が100万円までなら、10万円ごとに1000円必要となります。支払督促は、その半額で計算します。
また、印紙代のほか、切手代が必要となりますが、両方をあわせても、1万前後で収まると思います。切手代は、人数によっても若干変動しますので、最終的には裁判所に問い合わせてください。
(参考資料1:最高裁HP 簡易裁判所の民事事件Q&A)
http://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kansai/index.html
小額訴訟や支払督促の総合的な解説サイトです。
(参考資料2:最高裁HP 手数料案内のページ)
http://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/tesuuryou.html
|
>> 専門家でない普通のあなたが裁判をするには? そのノウハウを解説
|
|
|
§お勧め資料§
● 『法務担当者のための
民事訴訟対応マニュアル』
田路 至弘 編著
(商事法務 2005年10月)
訴状の作成をはじめ、裁判のテクニック全般について学びたいのなら、この本。書式のサンプル、具体例も要所において掲載されて重宝します。
訴訟の専門的な知識についても、本人訴訟をする上で必要な分量で解説されており、下手に学問書を齧るより、平易で分かりやすく素人向きの良書だと思います。
本書の最大の特徴は、企業の法務向けの本を謳っているように、類書にはない、ちょこちょこっとした訴訟戦術のような豆知識が盛り込まれていることです。過大な期待はすべきではありませんが、弁護士と接点をもたずに訴訟をする場合、こういった走り書きのようなメモでも大いに参考になるのではないでしょうか。
● 『書式 民事訴訟の実務』
民事訴訟の書式を中心にした実務本。実際に訴訟に参加するならば、書式は知っておくに越したことはありません。手続きの流れに沿って、実務の観点から必要となる解説が付されていますので、本人訴訟を考えるならば、訴訟の手続き面に関しては必須の一冊かと。
勿論、書面の内容をいかに書いていくかについては、実体法などの別のテキストでの勉強が必要となります。
|