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[弁護士費用は、訴訟費用?]
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裁判をするかどうかで迷う最大の原因の一つとして、訴訟費用、とりわけ、弁護士費用の(最終的な)負担の問題があります。折角裁判で勝っても、この弁護士費用が高くつき、「費用倒れ」になりかねないとの危惧があるからです。
では、弁護士費用は、裁判に勝った場合、相手に要求できるのでしょうか?
結論としては、原則として、できません。「訴訟費用は、被告の負担とする」との訴状の記載部分が認容されていても、同じです。
これは、法律上「訴訟費用」という場合、民事訴訟費用等に関する法律(民訴費用法)2条所定のものを指すからです。そして、大雑把に項目を挙げれば、@訴状に貼った印紙代、A郵便切手代、B旅費・日当などです。なお、ここで、B旅費・日当は当事者が恣意的に定めることができるものではなく、所定の算定式により導きます。
他方で、弁護士費用(の一部)が、実質的に相手方負担となる場合もあります。これは、弁護士費用相当額を、別請求で【不法行為】を原因として請求していることによります。
ここは、庶民感覚と同様の理屈で、「不要な訴訟をさせられたから弁護士費用もかかった」との論理によっています。但し、弁護士費用全額が認められることは、まずありません。
大体の相場は、認容額の1割が目安とされています。
この点については、最判昭和44年02月27日(最高裁HP)が、要旨、「不法行為の被害者が、自己の権利擁護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものにかぎり、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである」と判示しているところです。
但し、このようにして弁護士費用が一定額について認められるのは、元々の事件が不法行為のケースの場合です。単純な債務不履行や行政訴訟(取消訴訟)では、この判例法理は及びません。
もっとも、ある事件を、どのように法律構成して請求するかは、まさに弁護士の腕の見せ所です。それゆえ、最終的にその主張が裁判所に容れられるかはともかくとして、その辺りを工夫できるかどうかも、依頼した弁護士の能力を見定める一つの要素になるのではないでしょうか。
実際、阿部泰隆教授は、ある租税訴訟(最判平成16年12月17日判タ1176号123頁)を引用して、取消訴訟ではなく、国賠訴訟を利用することで、法律構成を不法行為に転化して、弁護士費用の請求を上乗せできないか、との議論をしております。
この点、判例タイムズの囲み解説(下記参照)でコンパクトにまとめられているように、「国家賠償訴訟においては請求が認容されるためには職務を行うについての故意又は過失の要件の充足が必要となることから、実務的にも、違法な課税処分を争う場合には取消訴訟を提起することが通常」であり、その意味で、弁護士費用を請求する為だけの便宜的構成をとることが実質的に許されるのかという問題がありますが、結論的には、より適当な主張形態があること(別ルートがあること)は、必ずしも、不法行為請求を介して弁護士費用の賠償請求を認容することの障害とはならなかったようです。
もっとも、対行政訴訟では、国家賠償訴訟と取消訴訟は互いに妨げないとの判例法理(最判昭和36年4月21日)があり、それを前提にした判断とも言えます。これに対して、一般民事訴訟では、取消訴訟のような特質を債務不履行には必ずしも認められませんので、本来債務不履行の事案であるにもかかわらず、強引に不法行為に構成することで弁護士費用の上乗請求が認められるかは、なお不透明といえます。
【追記】2012/02/26
13 “弁護士費用は、訴訟費用? その2/最判平成24年02月24日の衝撃??”
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■ 最判昭和44年02月27日民集第23巻2号441頁
思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。
≪引用者:補足≫-------------------------------------------------
この事件は、貸金の担保に第三者が所有権の移転の仮登記と抵当権設定をし、その後、所有権移転が為されたことから、その移転が無効であるとの前訴があり、その無効の主張が通って判決が確定していたのに、負けた貸主が、偶々、抵当権設定登記が抹消されずに残っていたことから、その競売を申し立てたという事案です。
■ 最判昭和36年04月21日民集第15巻4号850頁
行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、本訴が被上告人委員会の不法行為による国家賠償を求める目的に出たものであるということだけでは、本件買収計画の取消後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するということの理由とするに足りない。
■ 最判平成16年12月17日判タ1176号123頁の囲み解説
実務的にも、違法な課税処分を争う場合には取消訴訟を提起することが通常であると思われる。しかしながら、法令上、取消訴訟により課税処分の取消をしない限り国家賠償訴訟を提起できないという制限があるわけではない。・・・(中略)国家賠償制度とは、趣旨や目的、要件及び効果を異にする別個の制度であると理解すべきである。したがって、違法な課税処分を受けた者が、取消訴訟を提起せずに、課税処分を受けたことによる損害の回復を目的とする国家賠償訴訟を提起することは妨げられず、取消訴訟を提起し勝訴しなかったことから直ちに国家賠償訴訟の提起等による損害と当該課税処分との間の相当因果関係が欠けることとなるとまではいえないというべきであろう。
本判決は、上記のことを前提として、名宛人を誤った課税処分がされ、それに対する審査請求をしたが、裁決がされないまま約1年2ヶ月が経過したので、ほどなく課税庁により課税処分が取り消され、過誤納付金の還付等が行われたなどの判示の事実関係のもとでは、国家賠償訴訟の提起及び追行に係る弁護士費用のうち相当と認められる額の範囲内のものは、課税処分と相当因果関係のある損害に当ると判断したものと思われる。
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§お勧め資料§
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民事訴訟対応マニュアル』
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(商事法務 2005年10月)
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