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  [弁護士費用は、訴訟費用? その2/最判平成24年02月24日の衝撃??]


≪ついに、新判例?≫

弁護士費用の回収が可能か? これについては、不法行為事件に限って、認容額の1割ぐらいが認められるというのが、前回の講義「弁護士費用は、訴訟費用?」での答えでした。

つまり、契約違反を問うような損害賠償請求の事案では、弁護士費用は、たとえ全面勝訴でも損害としては認めてくれないというのが実務であり、定説でした。


ところが、最近、最高裁において、「原判決中、債務不履行に基づく損害賠償請求のうち弁護士費用に関する部分につき、・・・請求を棄却した部分は、破棄を免れない」と判示し、債務不履行に関して弁護士費用を損害として認容するかのごとき判断を示しました。

これは、一体どういうことなのでしょうか?



≪最判平成24年02月24日の衝撃??≫


この事案は、就労中に事故に遭って負傷した労働者が、使用者の安全配慮義務違反によって事故が発生したと主張して、債務不履行等に基づく損害賠償を求めたものでした。この上告審では、特に、弁護士費用が争点として争われるという興味深い事件です。なお、労働事故に基づく本来の損害そのものは、約5900万円請求に対して、約1876万円の一部認容で原審どまりで決着しています。


さて、最高裁が、弁護士費用についてどのように回答したかといえば、先にも述べましたが、弁護士費用を損害として認めなかった原審の判断を否定し、具体的な金額の審理をするよう原審に差し戻しました。

ということは、債務不履行に基づく損害賠償請求の事案でも、弁護士費用の賠償を認めるとの新法理を示したということになるのでしょうか?

残念ながら、その答えは、「控えめに理解すべき」でしょう。


着目すべきは、この事案が、就労中の労働者がその負傷に関して損害賠償を請求した事案であるという点です。より具体的には、「安全配慮義務違反」との債務不履行責任が問われている点が重要です。

まず、「安全配慮義務」とは、何か? これは、労働事故に関して、発展してきた法理です。

従前、労働者が就労中の事故により被った損害についての損害賠償請求は、債務不履行ではなく、不法行為に基づく法律構成によって請求すべきものだったのです。

ところが、不法行為には、3年の時効の壁というものがあり、事件によっては、遺族が心の整理をつけていざ裁判を考えたときには、既に時効が満了しており、それゆえに負けてしまうという問題があったのです。そこで苦肉の策として生まれてきたのが、この「安全配慮義務」という主張だったのです。そして、最高裁は救済の必要性から、その主張を認めました。

つまり、「安全配慮義務」は、債務不履行による法律構成ではありますが、時効の問題を回避する為の便宜的なものに過ぎないのです。言い換えれば、「安全配慮義務」事案というのは、実質は不法行為事件なのです。


従って、今回の最高裁の判決が、一般論として債務不履行による損害賠償事件での弁護士費用を損害として認めたわけではない、と理解しておくのが無難でしょう。実際、その判決理由においても、安全配慮義務と不法行為との類似性が指摘されています。(⇒後掲・判決文参照)

なお、その法理の核心となるのは、「これを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権」であるか否かです。





 ■ 最判平成24年02月24日 平成23(受)1039事件


 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

 したがって,労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである(最高裁昭和41年(オ)第280号同44年2月27日第一小法廷判決・民集23巻2号441頁参照)。




 ■ 最判昭和44年02月27日民集第23巻2号441頁


 思うに、わが国の現行法は弁護士強制主義を採ることなく、訴訟追行を本人が行なうか、弁護士を選任して行なうかの選択の余地が当事者に残されているのみならず、弁護士費用は訴訟費用に含まれていないのであるが、現在の訴訟はますます専門化され技術化された訴訟追行を当事者に対して要求する以上、一般人が単独にて十分な訴訟活動を展開することはほとんど不可能に近いのである。従つて、相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。













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