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  [原発損害裁判で、本人訴訟は可能か? その3](2011年11月09日)
  「原子力損害賠償支援機構法?」


≪支援機構が相談に乗る?≫


先日、ニュースで、“枝野経済産業大臣が、ストレステストについての電力会社と原子力安全・保安院の間の文書でのやり取りを11月8日からホームページ上で公開を始めた”、と報道されていましたので、経済産業省のHPをみにいってみたところ、それとは脱線しますが、特集ページ「原子力発電所事故に関する賠償などについて」が組まれているのを見つけました。



そのヘッドラインに、「平成23年8月3日、原子力損害賠償支援機構法が成立いたしました。」とあったので、斜め読みしてみたところ、個人的に興味を持ったのが次の2点でした。

その1つは、相談業務です。

なんでも、概要を読むと、支援機構は被害者の相談に乗るとありましたので、“なら、被災者の皆さんは、今後、損害賠償についての裁判の相談なども、ここにすればよいのでは?”などと安直に思ったのですが・・・。

ところが、条文を読んでみると、「機構は、原資力事業者に対する資金援助を行った場合には」と条件がありました。つまり、当分の間は、まだ相談に応ずべき条件を満たしていないんだな・・・、と。




≪支援機構が賠償金を支払う?≫


もう1つは、支援機構が被災者に対して直接賠償金を支払う云々とあった点です。

これは、いっけん良さそうな話ですが、しかし、東電に対する裁判を考える場合、一考を要します。というのは、法的な責任の所在がどこにあるのかは、裁判において誰を訴えるべきかを決定するうえで重要な要素だからです。

かつての行政訴訟などによくあったそうですが、被告にすべき相手が複雑で、間違った相手を訴えた為に、それを理由にして敗訴するということがあったわけです。なお、行政訴訟は、その後、行政訴訟法などの改正で改善されました。


そこで、法文において、法的責任が変更されていたりしないかを確認してみたところ・・・。

下記の囲みで引用しておきましたが、55条によれば、支援機構は「支払うことができる」という位置づけでした。これはつまり、以前から政府が主張しているところの、「賠償の第一義的責任は東電にある」云々の立場を崩していないということなのでしょう。そうであれば、とりあえず東電を被告にして訴えることで良さそうです。


なお、交通事故の損害賠償事件のように、保険会社に対して直接給付を求めるような裁判が可能なのかな? という点では疑問が残りました。

先にも述べましたが、条文上は、「機構は・・・支払うことができる」と規定されているのであって、「被害者は、機構に支払を求めることができる」とは規定されていません。これでは、難しそうです。

これに対して、いわゆる自賠責(自動車損害賠償保障法)では、「被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる」(16条1項)と規定され、その効果を受けて、被害者による直接請求が可能となっています。


しかも、支援機構が賠償金の肩代わりをする条件として、「資金援助を受けた」ことが条件1で、かつ、その事業者からの「委託を受けて」が条件2となっているのも、忘れてはなりません。このような規定ぶりだと、これまた当分の間は役に立たないのかな・・・、と思ったりもしました。

いずれにしろ、原発損害の賠償請求裁判はよくわからない法律が入り組んでいて、そういった法律を勉強してからでないと確たることが言えない、そういう茫漠としていて、厄介な事件だと感じました。




◆ 原子力損害賠償支援機構法より


第五十三条 (相談及び情報提供等)

 機構は、原子力事業者に対する資金援助を行った場合には、当該原子力事業者に係る原子力損害を受けた者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行うものとする。この場合において、機構は、当該業務を第三者に委託することができる。


第五十五条 (機構による原子力損害の賠償の支払等)

 機構は、資金援助を受けた原子力事業者の委託を受けて、当該原子力事業者に係る原子力損害の賠償の全部又は一部の支払を行うことができる。









 【参考】

 ⇒  原子力発電所事故に関する賠償などについて(経済産業省)
 〔同サイト内資料〕
   ⇒  原子力損害賠償支援機構法(PDF形式:1,531KB)
   ⇒  原子力損害賠償支援機構法施行令(PDF形式:571KB)

 ⇒  原子力損害賠償紛争審査会HP (文部科学省)


                                                                (続く)



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【シリーズ】 「原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?」

2011/12/16 「その7/債務超過でも、なぜ、東電は倒産しないのか?
2011/12/09 「その6/仮払金をもらっても、裁判は可能なのか?
2011/12/02 「その5/弁護士の見解、国の不作為責任
2011/11/25 「その4/免責規定、肯定説の真意とは?
2011/11/09 「その3/原子力損害賠償支援機構法?
2011/11/04 「その2/原賠法の免責規定は適用されるのか?
2011/10/24 「その1/東京電力を訴えればよい、と言われても・・・



【コンテンツ】
2011/10/18 「最高裁が是認!? スパム投稿の自由

【Blog】
2011/11/08 「追い出し被害対策巡り消費者団体訴訟 関西のNPO提訴 (朝日新聞)
2011/07/15 「中小企業の連帯保証人、経営にかかわる人に限定 (朝日新聞)
2011/07/03 「経営状況分析手数料の無料等の取扱いについて ((財)建設業情報管理センター)








≪コンテンツ(電子書籍)の紹介≫
『本人訴訟のタクティクス 訴えの提起編』
編著  本人訴訟の輪


要件事実とは、従前は、司法試験に合格した司法修習生を主たる対象として、民事訴訟の実務科目として為されていたものでした。ところが、法科大学院のスタートにより、その教育現場での科目として採用されるに至ったことから、いっきに、その存在が知られるようになりました。

学習書としては、『紛争類型別の要件事実』と、『問題研究要件事実ー―言い分方式による設例』(いずれも、司法研修所編・法曹会出版)がベーシックなものとなります。


しかし、そもそも、民事訴訟法のテキストも読んだことがなく、それどころか、民法の体系書を通読したことすらない素人にとっては、読んだところで効果的でない分野です。つまり、ある程度学習の進んだ方でないとその有用性が理解できない、そういう次元の書物だと思います。

他方、今回取り上げる岡口基一『要件事実マニュアル』は、『紛争類型別』などがテキストだとすれば、参考書に当たるよな書籍です。そして、こちらは要件事実そのものを理解すること以外にも活用できますので、素人にとってもその活用が検討されるわけです。

そこで、本書において、その素人なりの付き合い方について若干の考察をしてみました。


本書は、シリーズ「本人訴訟のタクティクス」から、訴えの提起編のコンテンツをセレクトしたものです。


収録タイトル
1  訴訟手続きを学習する  まずは、この100ページ!
2  どうしても知っておくべき基礎知識
3  「請求の特定」はプロでも難しい?
4  訴状の記載、簡略なものがプロらしい?
5  岡口・要件事実マニュアル 素人なりの付き合い方は?








 ● 訴訟のあれこれ編
   1 “まずは知ろう「裁判にかかる費用」”
   2 “弁護士に頼むべきか、自分でやるべきか”
   3 “見せかけの争点に騙されない”
   4 “「本人訴訟は不利である」、改めて、その覚悟を”
   5 “100人の弁護団?”
   6 “もう一度確認、本当に、訴えて割に合う?”
   7 “民事訴訟に関する法律や手続きを、学習する”
   8 “要件事実とは、何ですか? どう活用するの?”


   〆 民事訴訟一般の解説 (鳥取地裁・家裁HP)

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LawSchool 目次

T 訴状編
【訴状】の書き方などの解説。

U 答弁書編
【答弁書】、【準備書面】などの解説。

V 本人訴訟編
本人訴訟をする上での初歩的な心構え。

W ネットトラブル編
ネットにかかわる各種トラブルの各論。



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§お勧め資料§




● 『震災の法律相談Q&A (2版)』
  弁護士法人淀屋橋山上合同 編著
  (民事法研究会 2011年11月)

多くの項目をQ&A方式で扱っており、震災の法律関係について基本的にどのようになっているかを知るのに便利な一冊です。NHKの生活笑百科のような感覚で、実体関係について調べることができます。

ただ、あくまで専門書ですので、素人がそれだけを読んで自分で裁判までできるかと言えばそのようなものではありません。むしろ、弁護士に相談する前や、弁護士に本格的に相談したいと考えるような方が、基本的な法律知識を得る為に活用すべき一冊です。





● 『原発事故の訴訟実務
    風評損害訴訟の法理』
  升田 純
  (学陽書房 2011年12月)

色々な法律実務書をお書きになっている升田先生の御著書です。前半パートでは、必ずしも風評被害に限定せず、震災に関する法律問題を一般的に扱っておられます。後半パートでは、風評被害についての過去の裁判例などの紹介となっています。おそらく、風評被害の著作を、急遽、震災問題と結びつけられたのではないかと想像するような著作となっています。





● 『震災の法律相談』
  小倉秀夫ほか 著
  (学陽書房 2011年06月)

分かりやすい記述で、震災の法律問題を全般的に取り扱っています。ただ、それほど専門的な内容にまで踏み込んでいないような感じもします。どちらかといえば、さわりのみを扱っているという感じで、それが逆に、法律の素人には読みやすいかもしれません。







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