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  [原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?](2011年12月16日)
  「債務超過でも、なぜ、東電は倒産しないのか?」(第7回)


≪特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律?≫


あまり取り上げられていないように感じてならないのが、小見出しの「特定非常災害の被害者の〜」なんちゃらという法律(特定非常災害特別措置法、平成八年六月十四日法律第八十五号)です。民事法研究会の書籍『震災の法律相談Q&A〔第2版〕』にちょこちょこっとと、ジュリスト1427号の特集論文における脚注で少し触れられているぐらいにしか見たことがないのですが、実は、実務上重要な処理をこなしている法律ではないかと思います。

その一つが、東京電力(東電)の破産手続きについてです。




≪東電の破産手続開始決定は、平成25年3月までお預け≫


ズバッと言えば、この特定非常災害特別措置法には、破産手続きを凍結する効果があるのです。

具体的には、今般の東日本大震災に関しては、平成25年3月10日までの間、一定の例外を除いて、裁判所は破産開始手続開始決定をすることができず、破産手続開始を留保する決定をしなければならないことになっています。このことは、巨額の損害賠償額から推して債務超過が甚だしいかもしれない東電に対してもあてはまります。

従って、仮に、みなさんが破産開始決定を債権者として申し立てても、残念ながら、手続きそのものが進まないことから、法的に東電を倒産させることはできません。



なお、条文解釈は次のとおり。

まず、3.11東日本大震災が、特定非常災害特別措置法の2条にいう「特定非常災害」に、これまた長い名前の「東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(平成二十三年三月十三日政令第十九号)によって該当すると処理されています。

次に、そのなんちゃら「政令」の指定により、特定非常災害特別措置法の規定が適用できることになり、それゆえ、特定非常災害特別措置法の5条が適用されます。即ち、破産開始手続開始の決定ができなくなります。

また、なんちゃら「政令」によって、その決定の凍結期限が、平成25年3月10日と定められています(政令5条)。



◆ 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律


第五条 (債務超過を理由とする法人の破産手続開始の決定の特例に関する措置)


1  特定非常災害によりその財産をもって債務を完済することができなくなった法人に対しては、第二条第一項又は第二項の政令でこの条に定める措置を指定するものの施行の日以後特定非常災害発生日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日までの間、
破産手続開始の決定をすることができない。ただし、その法人が、清算中である場合、支払をすることができない場合又は破産手続開始の申立てをした場合は、この限りでない。

2  裁判所は、法人に対して破産手続開始の申立てがあった場合において、前項の規定によりその法人に対して破産手続開始の決定をすることができないときは、当該決定を
留保する決定をしなければならない。

3  裁判所は、前項の規定による決定に係る法人が支払をすることができなくなったとき、その他同項の規定による決定をすべき第一項に規定する事情について変更があったときは、申立てにより又は職権で、その決定を取り消すことができる。

4  前二項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。

5  第一項本文の法人の理事又はこれに準ずる者は、特定非常災害発生日から同項に規定する政令で定める日までの間、他の法律の規定にかかわらず、その法人について破産手続開始の申立てをすることを要しない。



第二条 (特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定)


1  著しく異常かつ激甚な非常災害であって、当該非常災害の被害者の行政上の権利利益の保全等を図り、又は当該非常災害により債務超過となった法人の存立、当該非常災害に起因する民事に関する紛争の迅速かつ円滑な解決若しくは当該非常災害に係る応急仮設住宅の入居者の居住の安定に資するための措置を講ずることが特に必要と認められるものが発生した場合には、当該非常災害を特定非常災害として政令で指定するものとする。この場合において、当該政令には、当該特定非常災害が発生した日を特定非常災害発生日として定めるものとする。

2  前項の政令においては、次条以下に定める措置のうち当該特定非常災害に対し適用すべき措置を指定しなければならない。当該指定の後、新たにその余の措置を適用する必要が生じたときは、当該措置を政令で追加して指定するものとする。




◆ 東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令


(特定非常災害の指定)
第一条  特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律 (以下「法」という。)第二条第一項の特定非常災害として東日本大震災(平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う原子力発電所の事故による災害をいう。第六条第一項において同じ。)を指定し、同日を同項の特定非常災害発生日として定める。

(特定非常災害に対し適用すべき措置の指定)
第二条  前条の特定非常災害に対し適用すべき措置として法第三条から第七条 までに規定する措置を指定する。

(延長期日)
第三条  第一条の特定非常災害についての法第三条第一項の政令で定める日は、平成二十三年八月三十一日とする。

(免責期限)
第四条  第一条の特定非常災害についての法第四条第一項の政令で定める特定義務の不履行についての免責に係る期限は、平成二十三年六月三十日とする。

(法第五条第一項 の政令で定める日)
第五条  第一条の特定非常災害についての法第五条第一項の政令で定める日は、
平成二十五年三月十日とする。







≪民事調停の申立費用は、無料!≫


折角、長ったらしい政令の話が出たので、耳寄りな情報についても言及しておきます。実は、この法律と政令のコンボの効用として、東日本大震災にかかる民事紛争に関しては、平成26年2月28日までの民事調停の申立てについて、その手続費用が不要になっています。



◆ 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律


第六条 (民事調停法 による調停の申立ての手数料の特例に関する措置)


 特定非常災害により借地借家関係その他の民事上の法律関係に著しい混乱を生ずるおそれがある地区として政令で定めるものに特定非常災害発生日において住所、居所、営業所又は事務所を有していた者が、当該特定非常災害に起因する民事に関する紛争につき、特定非常災害発生日以後当該特定非常災害発生日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日までの間に、
民事調停法による調停の申立てをする場合には、民事訴訟費用等に関する法律 (昭和四十六年法律第四十号)第三条第一項 の規定にかかわらず、その申立ての手数料を納めることを要しない。




◆ 東日本大震災についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令


(法第六条の政令で定める地区及び期日)
第六条
1 第一条の特定非常災害についての法第六条の政令で定める地区は、東日本大震災に際し災害救助法(昭和二十二年法律第百十八号)が適用された同法第二条に規定する市町村の区域(東京都の区域を除く。)とする。

2 第一条の特定非常災害についての法第六条の政令で定める日は、
平成二十六年二月二十八日とする。






≪追記≫ 2011年12月27日

26日、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府系)から、『中間報告』が公表されたことを受け、報道各社より一斉に記事が配信されていましたが、批判の基調は、人災であるとのものでした。

⇒ 「保安検査官逃げ回り・東電は子会社任せ…事故調」(読売)



また、翌27日付けで、東京電力の債務超過関連の記事が配信されており、参考までに紹介しておきます。

⇒ 「東電、賠償支払いで6894億円の追加支援申請」
(http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20111227-OYT1T00466.htm)

     東京電力は27日、福島第一原子力発電所事故の賠償支払いのため、6894億円の追加支援を政府の
    原子力損害賠償支援機構に申請した。
     東電は11月の緊急特別事業計画で、原子力損害賠償法に基づく国の補償金1200億円と支援機構を
    通じた約8900億円の計約1兆円の資金援助が認められた。今回の追加分と合わせ、支援の累計は約1
    兆7000億円になる。
     追加支援を求めるのは、政府の原子力損害賠償紛争審査会の指針で新たに約150万人の自主避難者
    への賠償などが加わったためだ。
     東電は2011年4〜12月期決算で、機構の追加支援を見込むことで
債務超過を回避する。
     一方、東電の賠償支払いは、被災者に当初配布した説明書類が膨大で請求が進まなかったことなどで、
    これまで約1500億円にとどまっている。
                                           (2011年12月27日11時31分 読売新聞)





 【参考】

 ⇒  東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会
 ⇒  原子力損害賠償紛争審査会HP (文部科学省)


                                                                (つづく)



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【シリーズ】 「原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?」

2011/12/16 「その7/債務超過でも、なぜ、東電は倒産しないのか?
2011/12/09 「その6/仮払金をもらっても、裁判は可能なのか?
2011/12/02 「その5/弁護士の見解、国の不作為責任
2011/11/25 「その4/免責規定、肯定説の真意とは?
2011/11/09 「その3/原子力損害賠償支援機構法?
2011/11/04 「その2/原賠法の免責規定は適用されるのか?
2011/10/24 「その1/東京電力を訴えればよい、と言われても・・・



【コンテンツ】
2011/10/18 「最高裁が是認!? スパム投稿の自由

【Blog】
2011/11/08 「追い出し被害対策巡り消費者団体訴訟 関西のNPO提訴 (朝日新聞)
2011/07/15 「中小企業の連帯保証人、経営にかかわる人に限定 (朝日新聞)
2011/07/03 「経営状況分析手数料の無料等の取扱いについて ((財)建設業情報管理センター)








≪コンテンツ(電子書籍)の紹介≫
『本人訴訟のタクティクス 訴えの提起編』
編著  本人訴訟の輪


要件事実とは、従前は、司法試験に合格した司法修習生を主たる対象として、民事訴訟の実務科目として為されていたものでした。ところが、法科大学院のスタートにより、その教育現場での科目として採用されるに至ったことから、いっきに、その存在が知られるようになりました。

学習書としては、『紛争類型別の要件事実』と、『問題研究要件事実ー―言い分方式による設例』(いずれも、司法研修所編・法曹会出版)がベーシックなものとなります。


しかし、そもそも、民事訴訟法のテキストも読んだことがなく、それどころか、民法の体系書を通読したことすらない素人にとっては、読んだところで効果的でない分野です。つまり、ある程度学習の進んだ方でないとその有用性が理解できない、そういう次元の書物だと思います。

他方、今回取り上げる岡口基一『要件事実マニュアル』は、『紛争類型別』などがテキストだとすれば、参考書に当たるよな書籍です。そして、こちらは要件事実そのものを理解すること以外にも活用できますので、素人にとってもその活用が検討されるわけです。

そこで、本書において、その素人なりの付き合い方について若干の考察をしてみました。


本書は、シリーズ「本人訴訟のタクティクス」から、訴えの提起編のコンテンツをセレクトしたものです。


収録タイトル
1  訴訟手続きを学習する  まずは、この100ページ!
2  どうしても知っておくべき基礎知識
3  「請求の特定」はプロでも難しい?
4  訴状の記載、簡略なものがプロらしい?
5  岡口・要件事実マニュアル 素人なりの付き合い方は?








 ● 訴訟のあれこれ編
   1 “まずは知ろう「裁判にかかる費用」”
   2 “弁護士に頼むべきか、自分でやるべきか”
   3 “見せかけの争点に騙されない”
   4 “「本人訴訟は不利である」、改めて、その覚悟を”
   5 “100人の弁護団?”
   6 “もう一度確認、本当に、訴えて割に合う?”
   7 “民事訴訟に関する法律や手続きを、学習する”
   8 “要件事実とは、何ですか? どう活用するの?”


   〆 民事訴訟一般の解説 (鳥取地裁・家裁HP)

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LawSchool 目次

T 訴状編
【訴状】の書き方などの解説。

U 答弁書編
【答弁書】、【準備書面】などの解説。

V 本人訴訟編
本人訴訟をする上での初歩的な心構え。

W ネットトラブル編
ネットにかかわる各種トラブルの各論。



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§お勧め資料§




● 『震災の法律相談Q&A (2版)』
  弁護士法人淀屋橋山上合同 編著
  (民事法研究会 2011年11月)

多くの項目をQ&A方式で扱っており、震災の法律関係について基本的にどのようになっているかを知るのに便利な一冊です。NHKの生活笑百科のような感覚で、実体関係について調べることができます。

ただ、あくまで専門書ですので、素人がそれだけを読んで自分で裁判までできるかと言えばそのようなものではありません。むしろ、弁護士に相談する前や、弁護士に本格的に相談したいと考えるような方が、基本的な法律知識を得る為に活用すべき一冊です。





● 『原発事故の訴訟実務
    風評損害訴訟の法理』
  升田 純
  (学陽書房 2011年12月)

色々な法律実務書をお書きになっている升田先生の御著書です。前半パートでは、必ずしも風評被害に限定せず、震災に関する法律問題を一般的に扱っておられます。後半パートでは、風評被害についての過去の裁判例などの紹介となっています。おそらく、風評被害の著作を、急遽、震災問題と結びつけられたのではないかと想像するような著作となっています。





● 『震災の法律相談』
  小倉秀夫ほか 著
  (学陽書房 2011年06月)

分かりやすい記述で、震災の法律問題を全般的に取り扱っています。ただ、それほど専門的な内容にまで踏み込んでいないような感じもします。どちらかといえば、さわりのみを扱っているという感じで、それが逆に、法律の素人には読みやすいかもしれません。


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