拍手で応援
お願いします♪







Lawschool
 趣味の本人訴訟セミナー
目次へ戻る


  [原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?](2011年12月02日)
  「弁護士の見解、国の不作為責任」


≪小島論文、免責規定の適否は【否定説】≫


大塚論文、森島論文と学者の論文を見てきましたが、今回は、弁護士の論考を取り上げてみます。小島延夫弁護士の論文で、日弁連の東日本大震災対策のプロジェクトチームの委員として、その議論から多くを得たものとなっています。


まず、大塚・森島論文では結論が対照的であった、いわゆる免責規定の適用の可否ですが、小島論文では【否定説】が主張されています。


◆ 小島延夫「福島第一原子力発電所事故による被害とその法律問題」 法時83巻9=10号55頁以下


 以下にのべるとおり、福島第一原発事故は、この免責規定に該当せず、免責されない。

 そもそも、この規定は「異常に」「巨大な」と二重の例外を必要とする極めて限定された規定である。そして並列的に規定されている「社会的動乱」は戦争や内乱をいうものと解されており、これに匹敵するほどの「異常に巨大な天災地変」によって生じた損害であるから、この免責規定の適用がある場合は、ごく限られた場合である。

 福島第一原発事故は、第一に、発生した地震・津波が想定すべき地震・津波であったこと、第二に、今回の地震・津波が異常に巨大といえないこと、第三に、前交流電源喪失が長時間に及ぶことは考える必要はないとされるなど事故の適切な想定・対策がなされていないという事業者の対応の不備により事故が起きたこと、からして、この免責規定の対象外である。



 さらに、そもそも、福島第一原発事故は、津波だけで発生した事故ではなく、以上に加えて、東京電力には次のような過失があった可能性がある。

 第一に、津波が来る前に外部電源はすべて喪失していたが、これらは地震によるものである。しかも、女川発電では外部電源が喪失しなかったのに、福島第一原発では外部電源がすべて喪失しており、外部電源の確保の方法に過失があった可能性がある。

 第二に、1号機における地震直後の圧力容器の圧力の急降下、水位の低下、格納容器圧力の異常上昇は、地震の震動による配管の損傷の可能性を推測させる。だとすれば、地震に耐えられない配管となっていた点を看過して操業した過失がある可能性がある。

 第三に、1号機において、津波襲来後ただちに、本来非常用電源が機能を失った場合に稼動すべき冷却機能が失われたのも不可思議である。地震によって、冷却材喪失事故などが起きていたため、そうした事態が起きた可能性があり、冷却機能のメンテナンスあるいは操作などにおいて過失が存在する可能性がある。

 第四に、今回の福島第一原発事故を起こした福島第一原発1号機から4号機は、操業開始から30年以上を経過したものであり、かつ、1980年ころまでには、様々な欠陥が判明していたマーク1型といわれる沸騰水型軽水炉である。構造的欠陥を有する福島第一原発1号機から4号機について、当初予定されていた設計寿命の30年を超えて使用しつづけてきた過失もある。






ところで、東京電力が12月2日付けで公表した『中間報告』では、今回の事故について、要約すれば、「地震によるものではなく津波によるものである」と結論づけているそうです。


  ◆参考 「東京電力、福島第1原発事故の原因について社内事故調査委員会の中間報告を公表」
   (http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00212766.html)

     事故時の施設の状況について、
地震による重要な機器の損傷は認められなかったものの、津波に
    よって
長時間、電源を喪失し、原子炉の注水、冷却が停止したとしている。また、1号機と3号機では、
    炉心損傷で発生した水素が原子炉建屋内に漏れ、滞留して水素爆発が起きたとしているが、2号機
    では爆発はなく、圧力抑制室の圧力低下は、計器が故障していた可能性が高いとしている。
     そのうえで、事故対応について、想定した前提を大きく外れる事態になり、これまでの安全への取り
    組みだけでは、事故の拡大を防止できなかったと結論づけた。



さて、上記の小島論文の見解では、「地震による」ことが東電の過失を根拠づける補強理由とされています。文脈的には、免責規定の可否のくだりで主張されていますが、過失そのものの有無についても当てはまる議論だと思われます。その観点からすると、東電が法的責任を逃れる為には、おのずからそのような「津波による」との【津波原因説】を主張せざるを得なかったところです。

そして、案の定、東電の自社報告では、【地震原因説】ではなく、【津波原因説】が主張されたわけです。




≪国の責任も?≫


小島論文では、いわゆる原賠法の免責規定の肯否のみならず幅広い論点に言及されていますが、その一つに、国の責任論があります。既に国においても、「社会的責任」なる責任を自認しているところですが、法律家が論じているのは、そのような曖昧な責任を超えたところの法的責任についてです。

どのような法的責任なのかといえば、「東電とともに、国にも重ねて賠償責任があるのではないか?」という議論です。


法理論の骨子は、ズバリ、いい加減な監督しかしてこなかった為に、今回の事故が生じてしまったのだ! というものです。この責任論は、薬害や公害裁判などにおいてしばしば争点となり、「国の不作為の責任」とか、「規制権限不行使に基づく責任」とか言われるもので、伝統的な法理論となっています。

最高裁も、一般論としては認めていたかと思いますが、現実の裁判でその責任が認められることは(別の理由によって結論的に責任が否定されることも多いのですが)殆どないといわれている難しい責任論です。


ただ、この国の責任が認められるのならば、被災者としては、東電だけでなく、国に対しても国家賠償が可能となってきますので、主張としては捨てがたいということなのでしょう。



本人訴訟を考える場合、この「国の不作為責任」については、基本的に絶望的だと思って臨みましょう。そもそも、不作為に基づく責任というのは根拠づけが中々難しいところ、原発裁判ともなれば、そこに「専門技術的な観点」というマジックワードが介在することによって、国の幅広い裁量権が肯定されると思われます。要するに、諮問委員会かなにかの御用聞き専門家の意見に従っていたとの資料さえ提出していれば責任は問われない、というような結論が始めから用意されていると思っておくのが無難です。

このように難しい責任論ですから、「国の不作為責任」の主張は、専門家の腕のみせどころとさえいえるでしょう。ならばと、その専門家へ批判的検討材料を与える為に、あえて主張を試みてみるというのも、ひとつの考えでしょう。しかしその場合、まさに、死屍累々、一将功なりて万骨枯る、の捨石になる覚悟が必要かと思われます。


なお、この国の不作為の責任論については、大塚先生も別の論文で触れられております。



◆ 小島延夫「福島第一原子力発電所事故による被害とその法律問題」 法時83巻9=10号65頁


7 国の責任と損害賠償枠組み問題


(1) 国の責任と責任集中原則問題

 原賠法第4条は、責任を原子力事業者のみに限定し、それ以外の者を免責する。では、国の責任もこの規定により免責されるのであろうか。

 国がその権限行使に過失があり、それにより事故を引き起こされたことが認められる場合には、国は、国家賠償法1条に基づく責任を負うと解すべきである。

 すなわち、第一に、事故の規模の大きさ・長期性継続性・程度内容の深刻さを考えると、国に過失がある場合にまでその責任を免除するのは相当は考えられないからであり、第二に、責任を免責することによって、安全対策をするべき行政の責務が不明確なものとなり、事故発生のリスクが増大することとなるからである。また、およそ免責されるということになると次にみる、事故発生後の国の対応責任さえもあいまいなものとなるからである。


 福島第一原発事故の場合、すでにみたような、地震・津波想定の誤りや全交流電源喪失が長時間に及ぶとは考える必要はないとするなど事故の想定・対策の誤りという、安全基準設定上の明らかな過失がある。しかも、東京電力は、福島第一原発で1978年には再臨界事故、1989年には再循環ポンプ事故を起こし、かつそれ以外にも重大な事故隠ぺいをしてきたのであるから、そもそもその技術的能力と安全性確保のための体制に重大な問題点があった。国はそれを知りつつも、漫然と当初設計寿命の30年を越えた原発の操業を認めてきたのであって、その行為には明らかな過失がある。

 したがって、福島第一原発事故の場合、国は国家賠償法1条に基づく責任を免れない。





◆ 大塚 直「福島第一原発事故による損害賠償と賠償支援機構法」 ジュリスト1433号40頁


T 東電の責任と国の責任

 著者は別稿で触れたように、原賠法3条1項ただし書の免責規定の適用は困難であると考えているが、その上で――仮に、規制権限不行使に基づく国家賠償責任が共同不法行為ないし競合的不法行為となる余地はありうると解している(なお、これらの点は中間指針では扱われていない)。この点については、原子力事業者への責任集中について規定する原賠法4条との関係で問題があるが、次のように考える。国会の議事録等を参照すると、この規定は、


(1)機器・資材等の供給者が、事故の際に責任を負うことをおそれ、供給を拒むことが考えられるため、それを未然に防ぐ必要があること、

(2)仮に機器等の供給者が賠償責任保険を締結してしまうと、保険の引受能力が十分ではなく、原子力事業者の保険による賠償能力が低下してしまうため、引受能力の最高額を得るためには保険証券の需要の累積を避ける必要があったこと、

(3)高度の技術の集合体である原子力施設の場合、損害を発生させた原因者の究明を被害者に行わせるのは酷であることが挙げられる。


これらのいずれを見ても、国家賠償責任を否定する理由はなく、同条は国家賠償責任を排除していないと解しうると思われる(注5)。また、もし国家賠償請求が認められないとすると、憲法違反となるおそれもないわけではない。


≪注5≫ ・・・科学技術庁原子力局監修『原子力損害賠償制度〔改訂版〕』(通商産業研究社、1991年)59頁は、これとは反対の見解を簡潔に示しているが、特に理由は付していない。



(※ ネット閲覧の便宜のために、適宜改行等を加えた。)







 【参考】

 ⇒  原子力損害賠償紛争審査会HP (文部科学省)


                                                                (つづく)



Pickup

【シリーズ】 「原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?」

2011/12/16 「その7/債務超過でも、なぜ、東電は倒産しないのか?
2011/12/09 「その6/仮払金をもらっても、裁判は可能なのか?
2011/12/02 「その5/弁護士の見解、国の不作為責任
2011/11/25 「その4/免責規定、肯定説の真意とは?
2011/11/09 「その3/原子力損害賠償支援機構法?
2011/11/04 「その2/原賠法の免責規定は適用されるのか?
2011/10/24 「その1/東京電力を訴えればよい、と言われても・・・



【コンテンツ】
2011/10/18 「最高裁が是認!? スパム投稿の自由

【Blog】
2011/11/08 「追い出し被害対策巡り消費者団体訴訟 関西のNPO提訴 (朝日新聞)
2011/07/15 「中小企業の連帯保証人、経営にかかわる人に限定 (朝日新聞)
2011/07/03 「経営状況分析手数料の無料等の取扱いについて ((財)建設業情報管理センター)








≪コンテンツ(電子書籍)の紹介≫
『本人訴訟のタクティクス 訴えの提起編』
編著  本人訴訟の輪


要件事実とは、従前は、司法試験に合格した司法修習生を主たる対象として、民事訴訟の実務科目として為されていたものでした。ところが、法科大学院のスタートにより、その教育現場での科目として採用されるに至ったことから、いっきに、その存在が知られるようになりました。

学習書としては、『紛争類型別の要件事実』と、『問題研究要件事実ー―言い分方式による設例』(いずれも、司法研修所編・法曹会出版)がベーシックなものとなります。


しかし、そもそも、民事訴訟法のテキストも読んだことがなく、それどころか、民法の体系書を通読したことすらない素人にとっては、読んだところで効果的でない分野です。つまり、ある程度学習の進んだ方でないとその有用性が理解できない、そういう次元の書物だと思います。

他方、今回取り上げる岡口基一『要件事実マニュアル』は、『紛争類型別』などがテキストだとすれば、参考書に当たるよな書籍です。そして、こちらは要件事実そのものを理解すること以外にも活用できますので、素人にとってもその活用が検討されるわけです。

そこで、本書において、その素人なりの付き合い方について若干の考察をしてみました。


本書は、シリーズ「本人訴訟のタクティクス」から、訴えの提起編のコンテンツをセレクトしたものです。


収録タイトル
1  訴訟手続きを学習する  まずは、この100ページ!
2  どうしても知っておくべき基礎知識
3  「請求の特定」はプロでも難しい?
4  訴状の記載、簡略なものがプロらしい?
5  岡口・要件事実マニュアル 素人なりの付き合い方は?








 ● 訴訟のあれこれ編
   1 “まずは知ろう「裁判にかかる費用」”
   2 “弁護士に頼むべきか、自分でやるべきか”
   3 “見せかけの争点に騙されない”
   4 “「本人訴訟は不利である」、改めて、その覚悟を”
   5 “100人の弁護団?”
   6 “もう一度確認、本当に、訴えて割に合う?”
   7 “民事訴訟に関する法律や手続きを、学習する”
   8 “要件事実とは、何ですか? どう活用するの?”


   〆 民事訴訟一般の解説 (鳥取地裁・家裁HP)

目次へ戻る


LawSchool 目次

T 訴状編
【訴状】の書き方などの解説。

U 答弁書編
【答弁書】、【準備書面】などの解説。

V 本人訴訟編
本人訴訟をする上での初歩的な心構え。

W ネットトラブル編
ネットにかかわる各種トラブルの各論。



  葵の本人訴訟セミナー 受講生募集中!今すぐ、Click!
  >> 専門家でない普通のあなたが裁判をするには? そのノウハウを解説












HOMEへ


    




§お勧め資料§




● 『震災の法律相談Q&A (2版)』
  弁護士法人淀屋橋山上合同 編著
  (民事法研究会 2011年11月)

多くの項目をQ&A方式で扱っており、震災の法律関係について基本的にどのようになっているかを知るのに便利な一冊です。NHKの生活笑百科のような感覚で、実体関係について調べることができます。

ただ、あくまで専門書ですので、素人がそれだけを読んで自分で裁判までできるかと言えばそのようなものではありません。むしろ、弁護士に相談する前や、弁護士に本格的に相談したいと考えるような方が、基本的な法律知識を得る為に活用すべき一冊です。





● 『原発事故の訴訟実務
    風評損害訴訟の法理』
  升田 純
  (学陽書房 2011年12月)

色々な法律実務書をお書きになっている升田先生の御著書です。前半パートでは、必ずしも風評被害に限定せず、震災に関する法律問題を一般的に扱っておられます。後半パートでは、風評被害についての過去の裁判例などの紹介となっています。おそらく、風評被害の著作を、急遽、震災問題と結びつけられたのではないかと想像するような著作となっています。





● 『震災の法律相談』
  小倉秀夫ほか 著
  (学陽書房 2011年06月)

分かりやすい記述で、震災の法律問題を全般的に取り扱っています。ただ、それほど専門的な内容にまで踏み込んでいないような感じもします。どちらかといえば、さわりのみを扱っているという感じで、それが逆に、法律の素人には読みやすいかもしれません。







ホームへ