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  [原発損害裁判で、本人訴訟は可能か? その4](2011年11月25日)
  「免責規定、肯定説の真意とは?」


≪森島論文の真意は、政府責任の根拠付けにあり!≫


大塚論文で、原賠法(原子力損害賠償法)の免責規定を肯定する見解として参考になると紹介されていたものに、森島昭夫先生の論文があります。確かに、森島論文は、原賠法の免責規定の適用を肯定する見解を表明するものでありました。森島先生は、民法の不法行為法の分野で業績を残しておられる方ですので、その見解は簡単には捨て置けません。


ただ、この森島論文の真意とするところがどこにあるのかといえば、被害救済の否定ではありません。むしろ、そのタイトル「政府には原子力被害救済の責任がある」というところに端的に現れていますように、東電ではなく、政府の責任を法的に根拠づけようとするところにあるようです。


◆ 森島昭夫「政府には原子力被害救済の責任がある」『中央公論2011年7月号』141頁より


それでは、東日本大震災が「異常に巨大な天災地変」にあたらないのだろうか。

今回の地震のマグニチュード(M)は9であったといわれている。エネルギーの強さで言えば、関東大震災のM7.9の約40倍に相当するということである。これまでわが国で記録されている最大の地震は869年に三陸沖で発生した貞観地震と言われているが、M8.3〜8.6と推定されている。

ドイツやスイスの立法のように、被害救済を重視して最初から免責を認めないのならばともかくとして、天災地変について免責事由をおく以上、貞観地震を上回るような地震が免責事由にあたらないという海江田流の解釈は異様である。私が周りの法律家に聞いても、今回の大震災が「異常に巨大な天災地変」にあたらないと言う人は誰もいなかった。


(※注  閲覧の便宜の為、適宜改行等を加えた。)





≪免責規定の否定一辺倒も考え物≫


森島論文の特徴とするところは、原賠法の立法経緯の解説とそれを踏まえての政府見解(当時の管政権)の法的解釈の誤りの指摘です。

確かに、東電が賠償責任を全て負うべきであるというような雰囲気が今日においては醸成されており、もはや東電がその立場から抜け出せるような状況にはありませんが、しかし、法的にどこまでそれは正当な解釈なのでしょうか?

例えば、先日も「東電、減額方針撤回=精神的賠償、書類も簡素化」(2011年11月24日配信:時事通信)と題して、「避難者の精神的損害に対する賠償について、・・・8月末までは月10万〜12万円を支払い、9月以降は月5万円に半減する方針を決めていたが、強い反発を受けて減額方針を撤回した」と報道されたばかりです。

しかし、森島論文が指摘するように、そもそも法的解釈として大前提に誤りがあって、本当は、政府こそが第一義的な責任の主体ではないのか? と再考してみることも大事ではないでしょうか。その結果、結論が変わらずとも、虚心坦懐にみつめるとき初めて見えてくるものというものもあるように思われます。


個人的には、森島論文が指摘する次のような指摘は興味深かったです。


    “原賠法は、原資力事業者に青天井の無過失責任(無限責任)を課し、損害賠償支払いを担保させる
    ために、一定額(現在は1工場1200億円)の責任保険などの損害賠償措置を講ずることを強制して
    いる(6条以下)。ただ、民間保険が付保しない地震等については、政府が「原子力損害賠償補償契約
    法」(昭和36年)に基づいて、補償という名の政府保険を損害賠償措置として提供している。補償料と
    いう対価を徴収し、補償契約に基づいて支払われる補償金は、その法的性質は民間で言えば保険金
    であり、補償という言葉は同じだが、国家が被害者に対して損失填補をする補償とは、似て非なるもの
    である。事業者との間の補償契約に基づいて東電に支払う1200億円の補償金は、すでに締結した
    契約に基づいて政府が東電に対して当然に支払わねばならないのであるから、〔当時〕枝野官房長官
    などが記者会見で、政府が「肩代わりをする」とか、政府が「責任を持つ」とか述べ、あたかも原賠法16条
    の政府の「援助」の一環のような印象を与える説明をするのは、きわめてミスリーディングである。”
    (上掲・森島pp141-142)


    “〔当時の〕管内閣は、事故発生以来一貫して、今回の原子力損害は東電の損害賠償責任によって
    填補されるべきであるという態度をとってきた。しかも、政府が指示した農作物の出荷制限や漁業の
    操業制限による農漁業者の被害、避難区域内の企業の休業損害、住民の精神的被害、さらには近隣
    地域で生産される工業製品輸出の風評被害にいたるまで、各種各様の損害がすべて完全に賠償さ
    れるかのような期待を原子力事故の被害者に与えているのではないか。他方で、管首相を始めとして、
    政府の閣僚は、政府は最終的に責任を負っていると繰り返し述べるものの、責任の具体的な内容は
    明らかでなく、むしろ「原発賠償機構」構想などを見ると、国は原子力損害の被害者に対して直接被害
    補償をするということなど考えておらず、電力供給者としての東電が賠償支払いによって事業破綻する
    ことがないように東電の経営に関与し資金を貸与する方針のようである。”
    “・・・(中略)しかし、今回のような「想定外」の大震災による原子力損害の被害救済にあたって、現行
    原賠法の基本的な考え方や原賠法が抱えている問題点について十分理解することもなく、測り知れ
    ないほど多種多様で、かつ長期間にわたって発生するかも知れない被害について、長期的な見通し
    もないままに、行き当たりばったりに賠償の「仮払い」で救済措置を始める〔当時〕管内閣のやり方は、
    とどのつまり被害救済をめぐる紛争を長引かせ、一般の住民や農漁業民はいつまで経っても被害
    救済されることなく、いたずらに社会的な不安と不満を大きくするように思われる。事情は異なるが、
    50年経っても解決しなかった水俣病を思い出してほしい。JCO臨界事故の賠償問題の最終的な解決
    にも10年かかっている。”
    (上掲・森島pp137-138)




≪とはいえ、裁判を考えると困りもの・・・≫


森島論文は、掲載媒体が中央公論ということもあってか、比較的一般人にも分かりやすい(つまり、専門論文のような難解さが薄い)文章で書かれています。そして、原賠法の立法経緯や、(当時の)管政権の政府見解についてその法的解釈の明白な誤りなどが解説され、しかも、どちらかといえば、マスコミなどで塗り固められている見解とは違った角度からの鋭い切り口の読み物となっておりますので、原発裁判を考えておられる方は特に、是非とも一読されることをお勧めします。


とはいえ、本気で東電相手に裁判を考えているような方にとっては、森島論文のような見解は、ありがた迷惑な存在です。というのは、以前に紹介した大塚論文と、今回の森島論文では、原賠法の免責規定の適用について真っ向から逆のことを主張しており、これは即ち、実際に裁判をする場合、結局、国と東電のいずれを被告席に据えるべきかで悩まなければならないことを意味しているからです。

つまり、免責規定が認められるのであれば東電を訴えても負けるわけで、その場合、国こそを訴えねばならなかったことになるのです。

勿論、裁判をするうえで技術的には、国と東電をいずれも訴えることは可能です。しかし、国と東電の両方を訴えようとする場合、ひとつデメリットがあるのです。それは、単純に、被告の数だけそれに見合った訴訟費用が必要になる、つまり、訴訟費用が倍になるという難点です。但し、ここでいう「訴訟費用」には弁護士費用は含まれませんので、思ったほど多額になるとは限りませんが。


このような結果になるのは、裁判実務上、「まず、東電を相手に裁判を行い、その結果、もし免責規定の適用があると裁判所が判断したのならば、国を相手にした裁判をしてくれ」というような裁判のやり方(いわゆる主観的予備的併合)が認められていないからです。

そこで、“どちらかの責任があることは確かであるが、どちらかの責任を認めてもらえれば十分だという場合”であっても、やむなく、国と東電の両方をともあれ訴えるのが実務となっています。そのうえで、同時審判を裁判所の裁量でしてもらい、判決上は、矛盾のない形での結論をもらうことになるわけです。


以上、弁護士にとっては些細な問題ともいえますが、いざ、本人訴訟となると、実務上のテクニックと費用負担の問題が生じますので、「原発裁判はそんなに単純ではない」というのが素直な実感です。





 【参考】

 ⇒  原子力発電所事故に関する賠償などについて(経済産業省)
 〔同サイト内資料〕
   ⇒  原子力損害賠償支援機構法(PDF形式:1,531KB)
   ⇒  原子力損害賠償支援機構法施行令(PDF形式:571KB)

 ⇒  原子力損害賠償紛争審査会HP (文部科学省)


                                                                (続く)



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【シリーズ】 「原発損害裁判で、本人訴訟は可能か?」

2011/12/16 「その7/債務超過でも、なぜ、東電は倒産しないのか?
2011/12/09 「その6/仮払金をもらっても、裁判は可能なのか?
2011/12/02 「その5/弁護士の見解、国の不作為責任
2011/11/25 「その4/免責規定、肯定説の真意とは?
2011/11/09 「その3/原子力損害賠償支援機構法?
2011/11/04 「その2/原賠法の免責規定は適用されるのか?
2011/10/24 「その1/東京電力を訴えればよい、と言われても・・・



【コンテンツ】
2011/10/18 「最高裁が是認!? スパム投稿の自由

【Blog】
2011/11/08 「追い出し被害対策巡り消費者団体訴訟 関西のNPO提訴 (朝日新聞)
2011/07/15 「中小企業の連帯保証人、経営にかかわる人に限定 (朝日新聞)
2011/07/03 「経営状況分析手数料の無料等の取扱いについて ((財)建設業情報管理センター)








≪コンテンツ(電子書籍)の紹介≫
『本人訴訟のタクティクス 訴えの提起編』
編著  本人訴訟の輪


要件事実とは、従前は、司法試験に合格した司法修習生を主たる対象として、民事訴訟の実務科目として為されていたものでした。ところが、法科大学院のスタートにより、その教育現場での科目として採用されるに至ったことから、いっきに、その存在が知られるようになりました。

学習書としては、『紛争類型別の要件事実』と、『問題研究要件事実ー―言い分方式による設例』(いずれも、司法研修所編・法曹会出版)がベーシックなものとなります。


しかし、そもそも、民事訴訟法のテキストも読んだことがなく、それどころか、民法の体系書を通読したことすらない素人にとっては、読んだところで効果的でない分野です。つまり、ある程度学習の進んだ方でないとその有用性が理解できない、そういう次元の書物だと思います。

他方、今回取り上げる岡口基一『要件事実マニュアル』は、『紛争類型別』などがテキストだとすれば、参考書に当たるよな書籍です。そして、こちらは要件事実そのものを理解すること以外にも活用できますので、素人にとってもその活用が検討されるわけです。

そこで、本書において、その素人なりの付き合い方について若干の考察をしてみました。


本書は、シリーズ「本人訴訟のタクティクス」から、訴えの提起編のコンテンツをセレクトしたものです。


収録タイトル
1  訴訟手続きを学習する  まずは、この100ページ!
2  どうしても知っておくべき基礎知識
3  「請求の特定」はプロでも難しい?
4  訴状の記載、簡略なものがプロらしい?
5  岡口・要件事実マニュアル 素人なりの付き合い方は?








 ● 訴訟のあれこれ編
   1 “まずは知ろう「裁判にかかる費用」”
   2 “弁護士に頼むべきか、自分でやるべきか”
   3 “見せかけの争点に騙されない”
   4 “「本人訴訟は不利である」、改めて、その覚悟を”
   5 “100人の弁護団?”
   6 “もう一度確認、本当に、訴えて割に合う?”
   7 “民事訴訟に関する法律や手続きを、学習する”
   8 “要件事実とは、何ですか? どう活用するの?”


   〆 民事訴訟一般の解説 (鳥取地裁・家裁HP)

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LawSchool 目次

T 訴状編
【訴状】の書き方などの解説。

U 答弁書編
【答弁書】、【準備書面】などの解説。

V 本人訴訟編
本人訴訟をする上での初歩的な心構え。

W ネットトラブル編
ネットにかかわる各種トラブルの各論。



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§お勧め資料§




● 『震災の法律相談Q&A (2版)』
  弁護士法人淀屋橋山上合同 編著
  (民事法研究会 2011年11月)

多くの項目をQ&A方式で扱っており、震災の法律関係について基本的にどのようになっているかを知るのに便利な一冊です。NHKの生活笑百科のような感覚で、実体関係について調べることができます。

ただ、あくまで専門書ですので、素人がそれだけを読んで自分で裁判までできるかと言えばそのようなものではありません。むしろ、弁護士に相談する前や、弁護士に本格的に相談したいと考えるような方が、基本的な法律知識を得る為に活用すべき一冊です。





● 『原発事故の訴訟実務
    風評損害訴訟の法理』
  升田 純
  (学陽書房 2011年12月)

色々な法律実務書をお書きになっている升田先生の御著書です。前半パートでは、必ずしも風評被害に限定せず、震災に関する法律問題を一般的に扱っておられます。後半パートでは、風評被害についての過去の裁判例などの紹介となっています。おそらく、風評被害の著作を、急遽、震災問題と結びつけられたのではないかと想像するような著作となっています。





● 『震災の法律相談』
  小倉秀夫ほか 著
  (学陽書房 2011年06月)

分かりやすい記述で、震災の法律問題を全般的に取り扱っています。ただ、それほど専門的な内容にまで踏み込んでいないような感じもします。どちらかといえば、さわりのみを扱っているという感じで、それが逆に、法律の素人には読みやすいかもしれません。







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